藤沢周平の「義民が駆ける」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★★★☆

天保一揆、天保義民という風にいわれる荘内領民の藩主国替え阻止騒ぎを題材にした歴史小説。

面白いのは集団としての百姓に主人公格を与えられていることである。それに対するのは、幕府の権力を握る老中・水野忠邦。そして、間に挟まれる形での荘内藩である。

集団としての百姓は、始めは少数での動きだったのが、徐々に人数を増やして、そのうねるような胎動は、まさに歴史の力を感じさせる。

歴史小説の場合、通常は権力者側から描かれることが多い。それは特定の個人であったり、政治史的な観点からの物語であったりする。そうなるのは、政治史的な観点からの歴史には多くの史料が残っており、描きやすいという側面があるからである。

一方、農民や漁民などの百姓や町人側の史料は少ない、もしくは研究が進んでいないため、こちらの社会史的な面からの小説というのはほとんどないと言って良い。

現在では、それなりに社会史分野の研究がかなり進んできているが、それに先んじて、藤沢周平はこうしたテーマを選んで描いている点に敬意を覚える。と同時に、こういう社会史的な側面にスポットを当てた小説というものがもっとあってもよいと思う。これも歴史小説に残されている一つの可能性であろう。

内容/あらすじ/ネタバレ

徳川家斉に呼び出された老中・水野忠邦は、川越藩松平斉典を荘内に転封することについてどうなっているかと聞かれた。

水野忠邦はそのことについて荘内藩と川越藩の国替えよりは、長岡藩を加えて三方国替えにしたほうがよいのではないかと述べる。

家斉もそれでよしとし、このまま老中たちの採決を取り、三方国替えが決まった。

正式な通達が江戸屋敷にいる世子・忠発に伝えられた。あまりの出来事に忠発は混乱したが、まずは国元に知らせなければならない。

その使者には江戸留守居役の矢口弥兵衛が買って出た。

その間にも、江戸屋敷で打てる手は打つ必要がある。国元にこの知らせがもたらされると、この決定に対して藩主・忠器は水野忠邦の影を敏感に感じ取った。

江戸では江戸留守居役の大山庄太夫が八方に人を遣り、今回の決定に関する情報を集めていた。すると、川越藩が働きかけた痕跡が見えてきた。この決定は理由あるものではないことは明白だった。

荘内藩はいずれにしても金が必要だった。それは決定を覆らせるための工作金としての意味もあり、転封の際の資金としての意味もあった。その資金は城下の豪商・本閒光暉に頼むつもりであった。

転封の話は荘内藩の皆が知るところとなっている。特に百姓にとっては深刻な意味を持っている。転封する際に現・荘内藩は過酷な取立をして、後からくる川越藩のために何も残さないだろう。

そして、やってくる川越藩は更に過酷な取立をするだろう。その結果、もしかしたら百姓の中には餓死者が出るかもしれない。

そんな状況の中、本閒辰之助を訪ねてきた村の肝煎長右衛門と清兵衛だった。二人は現藩主が移封しないように江戸に訴え出ようと考えていた。場合によっては一揆もあり得るという覚悟だった。

藩側の思惑とは別に百姓が動き始めた。百姓達は次から次へと江戸に向かって出発した。駕籠訴をするためである。

幕府の中、荘内藩、百姓のそれぞれの思惑が交錯する中、前将軍の徳川家斉が死去した。この三方国替えを命じた本人であった。

本書について

藤沢周平
義民が駆ける
中公文庫 約四一五頁
長編
江戸時代

目次

三方国替え
波紋
駕籠訴
領内騒然
江戸町奉行
逆転
嵐のあと

登場人物

本閒辰之助…京田通西鄕組書役
文隣和尚…玉龍寺住職

本閒光暉

酒井忠器…荘内藩主
酒井忠発…荘内藩世子
松平甚三郎…家老
矢口弥兵衛…江戸留守居役
大山庄太夫…江戸留守居役
都築十蔵…小姓頭
相良文右衛門…郡奉行

松平斉典…川越藩主
加賀屋万平

水野忠邦…老中
鳥居耀蔵…目付
太田資始…老中
土井利位…老中

矢部左近将監定謙…南町奉行
佐藤藤佐

徳川家斉…前将軍
水野忠篤…御側御用取次
徳川家慶…現将軍

中野碩翁

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