藤沢周平の「春秋山伏記」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

覚書/感想/コメント

★★★★★★★★★☆

藤沢周平の故郷の習俗をモチーフにした時代小説としては異色の小説である。

この異色さは、多くの時代小説が町を舞台にした市井ものであるか、武士の生活を描いた武家ものであるのに対して、本書がそのいずれでもない、社会風俗史的かつ地方史的な観点からの小説という点からもわかる。

だが、異色ではあっても、昔あった生活を描いているという点においては、やはり時代小説であることは間違いがない。モチーフとしたものが今までなかったものである点を除けば、何ら変わらないのである。

さて、本書の場合、山伏の大鷲坊が重要な役割を果たしているのはもちろんだが、山伏の小説というよりは、山伏のいる村の生活を描ききっているのがこの小説の特徴であろう。

時代小説は、歴史小説のように歴史的事件・事実に基づいて書かれるというよりは、名もなき人々の暮らしを様々な史料から掘り起こして書くという代物であると思う。そういう点においては、本書のような時代小説というのは現時点では希有ではあっても、時代小説の持つ豊穣さと広い可能性を示すものであると考える。

日本各地のそれぞれの習俗に基づいた小説というのは、万人受けするものではないかもしれない。しかし、それでも書いていく価値のあるものだと思うが、如何だろうか?

内容/あらすじ/ネタバレ

験試し

娘のたみえが崖から落ちそうになるのを、おとしがたみをの腕を掴んでいた。近道をしようとしたばかりに、落ちてしまったのだ。もう駄目だと思ったところを救ってくれたのは山伏だった。この山伏は、昔は鷲蔵といったおとしも知っている人間だった。今は大鷲坊と名乗っている。

この大鷲坊は、村の正式な別当になるため書付けを持ってやって来たのだが、村には既に月心坊という山伏がいた。村のものたちには、大鷲坊が正式な別当かどうかはともかくとして、法力のある山伏が必要だった。そこで、長人の利助が提案したのは、歩けなくなっているおきくという娘を治して見せろというものだった。
 

狐の足あと

村に住む広太は大半を村の外で働いていた。だから、家を守るのは、さきえという女房だった。村の若者でこの女房のところに夜這いをかける者はいなかった。というのも、広太が恐ろしかったからである。この日、藤助は広太の家から人が出てくるのを見てしまった。

下手に話すと噂はすぐに広まり、やがては広太の耳に届いてしまう。これが恐ろしくて、藤助は黙っていたが、とうとう我慢できずに話してしまう。

権蔵はこれを端で何気なく聞いていた。権蔵の家は困窮に喘いでいた。どうにかしなければ、この冬を乗り越せない。
 

火の家

村はずれの水車小屋に若者が住み着いたらしい。この若者は源吉といって、もともとは村の人間だった。しかし、以前に村の人間からひどい仕打ちを受け、家を火に焼かれてしまったのである。

大鷲坊はおすえの腹痛を治す祈祷をしているところを呼ばれて、肝煎の家に行った。あらかたの様子を聞いた大鷲坊は、一度その源吉に会ってみることにした。そして、源吉に会ってみると、源吉が抱く村への怨念は凄まじいものがあった。大鷲坊はどうするのか。
 

安蔵の嫁

大鷲坊は太九郎の家の前まできた時に太九郎のばあさんに呼ばれた。息子・安蔵の嫁の世話をしてくれないかというのだ。それを引き受けると、ばあさんは喜んだ。そして話し始めたのは、友助の娘・おてつが狐憑きになっているというものだった。

早速、大鷲坊はおてつに会いに行ってみると、果たして狐が憑いているようだ。しかも、この狐は一筋縄ではいかないようで…

大鷲坊はこの日、厄介なことを二つも抱え込んでしまった。一つは安蔵の嫁の話。もう一つはおてつの狐憑きである。
 

人攫い

祭りの集まりに顔を出したおとしの帰りが少し遅くなった。そして、帰ってみると娘のたみえがおとしを迎えに出ていなかった。しかし、あまりにも遅い。あわてておとしは方々を探してまわったがいなかった。

翌日、村の者たちが集まって相談をした。たみえはどうやら人攫いにあったらしい。そして、箕つくりの夫婦がいたのが判明した。この夫婦がどうやらたみえを攫ったらしい。

大鷲坊は別の村に連絡をとり、箕つくりの夫婦の情報を求めた。すると、子供を背負った一組の男女を見たという情報が得られた。早速、大鷲坊は後を追う。

本書について

藤沢周平
春秋山伏記
新潮文庫 約二七五頁
連作短編集
江戸時代
 

目次

験試し
狐の足あと
火の家
安蔵の嫁
人攫い

登場人物

大鷲坊(鷲蔵)…山伏
おとし
たみえ…おとしの娘
 
験試し
 おきく
 月心坊…山伏
 利助…長人
 
狐の足あと
 広太
 さきえ…広太の女房
 藤助
 権蔵
 おます…権蔵の女房
 弥兵衛…肝煎
 多三郎…添役
 宗助…多三郎の息子
 
火の家
 源吉
 おせん
 おすえ
 
安蔵の嫁
 安蔵
 おてつ
 
人攫い
 おとし
 たみえ
 月心坊

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