藤沢周平の「彫師伊之助捕物覚え 第3巻 ささやく河」を読んだ感想とあらすじ(最高に面白い!)

覚書/感想/コメント

★★★★★★★★★★

一見単純そうな捕物帳であるが、随所に散りばめられているはずのヒントに気が付かずに、話は進んでいく。物語の後半から、徐々に話が転回し始め、物語の始まりの方で想定されていた流れとは別の方向に進んでいく。

物語の最後にならないと、全体像が見えてこない。そして、全体像が見えたところで、随所に隠れていたヒントの意味が分かってくるのである。そういう点において、探偵ものとして優れた小説である。

惜しいことに、本シリーズはこの物語を最後に終わってしまう。他のシリーズものは一応、簡潔のかたちを取っているのだが、この伊之助シリーズは未完といってよいだろう。これからもいい話ができそうな人物設定なのに残念である。伊之助と石塚宗平との迷コンビがどうなるのか、そして伊之助とおまさが結局のところどうなるのか、といったところも永遠の謎になってしまった。

  1. 消えた女-彫師伊之助捕物覚え-
  2. 漆黒の霧の中で-彫師伊之助捕物覚え-
  3. ささやく河-彫師伊之助捕物覚え-

内容/あらすじ/ネタバレ

伊之助がふとした縁で世話をしていた年寄が殺された。年寄の名は長六といったらしい。しかも長六は島帰りだったのだ。

この長六殺しの捜査に石塚宗平は伊之助を引きずり込んだ。一年前、同じように石塚に引きずり込まれて大変な思いをした伊之助は断るつもりだったが、最後は押し切られてしまった。石塚からは多三郎の助けをしてやって欲しいとの頼みだった。

長六は殺された時三十両もの金を懐に入れていた。取られていないところを見ると、物取りの仕業ではないらしい。しかも、伊之助が世話していた頃の長六は金などに縁がないような年寄だったのだ。

伊之助はその三十両の出所から当たりを付け始めた。長六に三十両もの金を渡したのは、伊豆屋彦三郎という商人だった。伊豆屋は昔なじみの長六が島から帰ってきて、養生もかねて仕事に復帰できるまでの当座の金として渡したというのだが、これが引っかかる。金が多すぎやしないか?長六は伊豆屋を脅していたのではないか?それなら、三十両という金額の説明がつく。しかし、確証がない。

伊豆屋が長六に金を渡した店で聞きこみをしていると、もう一人客がいたようである。しかし、その客は伊豆屋や長六のいた部屋の隣にいたのではなかった。部屋を一つ挟んでいたのだ。その客が誰なのか気にはなるが、隣でないのならと、伊之助は長六の足取りを追ってさらに捜査は進める。

長六が言い争いをしていたというのを見た人間がいた。幸右衛門という家主だそうだ。だとすると、長六を襲ったのはその言い争っていた男なのか。もしかしたら、その男は伊豆屋なのではないか。

そして、長六の過去が分かってきた。長六が島に送られたのは、追い落としが直接の罪だったが、もう一つ長六にかけられていた嫌疑がある。山城屋という店に対する押し込みである。長六はそのことについて白状をしなかったので、追い落としの罪で島に流されたのだ。

とすると、伊豆屋と長六は押し込みの仲間だったのか?謎はどんどん深まってゆく…

本書について

藤沢周平
ささやく河
彫師伊之助捕物覚え
新潮文庫 約四二五頁
江戸時代

目次

闇の匕首
古いつながり
彦三郎の笑い
見ていた男
霧の中
ひとすじの光
襲撃
再び闇の匕首
目撃者
ひとの行方
浮かんだ顔
人間の闇
殺意
三人目の夜

登場人物

伊之助
おまさ

石塚宗平…定町回り同心
多三郎…岡っ引
金蔵…下っ引
庄助…下っ引

長六
鳥蔵
伊豆屋彦三郎

幸右衛門…大家

藤蔵…彫藤親方
峰吉
圭太