池波正太郎の「乳房」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

覚書/感想/コメント

★★★★★★★★★☆

鬼平犯科帳」の番外編。「鬼平犯科帳」は本書をいれて、計”25巻”と考えた方がよい。

時代の順番からいって、「鬼平犯科帳」の一巻よりも前になる。まだ、長谷川平蔵宣以が〔火付盗賊改方〕の頭になっていない頃から話しが始まり、やがて、〔火付盗賊改方〕の頭になった後までの期間を書いている。

本書では、お松という女が主人公であり、長谷川平蔵は重要な脇役になっている。お松は、「まるで、不作の生大根をかじっているようだ」と言われたことで、人を殺してしまうが、世間に顔向けの出来ない身となったことを自覚しながら生きていく。

このお松の心には変化が生まれ、無欲な人間へと変貌を遂げていく。この過程が丁寧に描かれているのは、さすがである。

内容/あらすじ/ネタバレ

お松は足袋問屋・加賀屋治助の女中で、当年十九歳になるが、二十二、三に見えた。このお松は、勘蔵という男にさんざんにもてあそばれ、捨てられたのだ。勘蔵がお松を捨てて姿をくらます前の晩、「まるで、不作の生大根をかじっているようだ」と言った一言がお松の耳にこびりついている。

お松は、ある日出かけた先で勘蔵を見かけ、ふらふらと後を付ける。そして、ついには勘蔵を殺してしまう。

その後、どこをどう逃げたのか、お松は分からなかったが、あるところでお松は気を失い、乱暴をされそうになっていた。そこに長次郎が通りかかり、お松を助ける。長次郎は阿呆鴉と呼ばれる、店を構えない売春業者であり、このお松を見てもしかしたら、モノになるかも知れないと思う。

勘蔵を殺すという非道をするような女なのに、お松はこんな自分に長次郎が何故親切にしてくれるのか不思議に思いながら、世話になる。やがて、長次郎の紹介で、倉ヶ野の旦那と呼ばれる男の妾になるが、このときもお松は不思議でしょうがなかった。そして、この倉ヶ野の旦那と共に、上方へと旅立つのである。

六年後、〔火付盗賊改方〕の頭となる長谷川平蔵宣以のところに三次郎という御用聞きが市井の話しをしに来る。その折りに、お松という女中が失踪したことを聞く。この話しに平蔵は興味を持つが、やがて忘れてしまう。

時が経ち、長谷川平蔵が〔火付盗賊改方〕の頭となり、野槌の弥平を捕まえた後のこと。お松は上方から江戸へ戻ってきた。倉ヶ野の旦那から暇を出されたのだ。いつかはこうなると思っていたお松なので、気落ちはしていなかった。

そして、お松と共に江戸にやって来た男がいた。この男は豆岩の岩五郎の元に現れ、盗みの助けをしてくれないかと頼む。

本書について

池波正太郎
乳房
文春文庫 約三二〇頁
長編 江戸時代

目次

男の家
阿呆鴉
十一屋語り草
倉ヶ野の旦那
再・十一屋語り草
五年後
〔豆岩〕の岩五郎
回生堂主人

月夜饅頭
雑司ヶ谷・鬼子母神境内

登場人物

お松
勘蔵
長次郎…阿呆鴉
お兼…隣に住む婆さん
倉ヶ野徳兵衛
芳之助…番頭
松浦屋庄三郎…回生堂主人
長谷川平蔵宣以
久栄…平蔵の妻
佐嶋忠介…与力
酒井祐助…同心
竹内孫四郎…同心
小柳安五郎…同心
三次郎…浅草駒形の御用聞き
豆岩の岩五郎…密偵
相模の彦十…密偵
中村彭庵…平蔵の幼なじみ