藤沢周平の「隠し剣孤影抄」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

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覚書/感想/コメント

★★★★★★★★☆☆
隠し剣シリーズの八編。海坂藩を舞台にしたものが数編納められている剣豪もの。

まず、それぞれの秘剣に特徴があるのが本書の魅力であろう。独創的な秘剣がそれぞれに冴えわたる。それがどのようなものなのかは、本書を是非読まれたい。

特に印象的なのは、二編目の「臆病剣松風」と「宿命剣鬼走り」である。

「臆病剣松風」では瓜生新兵衛が如何に臆病であるかが詳しく画かれており、それがゆえに、秘剣が炸裂したときの落差が大きい。

また、「宿命剣鬼走り」では、小関家と伊部家との対立が親子にわたっているてんから因縁めいている。そして最後の、お互い子を失った者の悲しみ、絶望から壮絶な果たし合いになっていく場面は圧巻である。

ちなみに、「隠し剣鬼の爪」は2004年公開の映画「隠し剣鬼の爪」の原作の一つである。他の原作は「時雨のあと」に収録されている「雪明り」である。

この短編集からもう一本映画化されている。「必死剣鳥刺し」を原作としたもので、2010年に公開されている。映画「必死剣鳥刺し」

内容/あらすじ/ネタバレ

邪剣竜尾返し

執拗に立ち会いを望む赤沢弥伝次。檜山絃之助は無視していたが、あることがきっかけで立ち会いに応じなければならなくなった。

このままでは負けると思った絃之助は中風で倒れた父に雲弘流秘剣・竜尾返しの教えを請う。中風で倒れて以来、父は言葉に難儀している。そこで、父の言葉が判読できる姉が聞き取ることになった…

臆病剣松風

海坂藩の鑑極流の達人瓜生新兵衛は、稀代の臆病者だった。妻の満江が夫が剣の達人であるということに疑いを持ったのは、地震のあった夜だった。新兵衛は寝間着のまま外に逃げ出していた。以来、夫を軽んじていた。

そんな新兵衛に藩命で若殿の警護が命ぜられる。それは、新兵衛が守りの剣・松風という秘剣を授けられているからである。

暗殺剣虎ノ目

海坂藩の組頭牧与市右ェ門は藩主・右京太夫に疎んじられている。そのことについては思い当たる節がある。現在、藩の執政会議は二派に分かれて論争に入っている。その時に藩主を批判したのだ。

いずれお咎めがあるだろうと思っていたら、何者かに殺されてしまった。藩に伝わる秘剣虎ノ目の遣い手にやられたらしい。牧与市右ェ門の息子・達之助は刺客が清宮太四郎だと推測した。

必死剣鳥刺し

藩主執政部屋から中老の津田民部が出てきた。藩主との用談がうまく運んだようだ。外では近習頭取の兼見三左ェ門がまっていた。津田はその兼見に今夜暇があるかと訊いた。込み入った話だという。

兼見三左ェ門が近習頭取に挙げられたのは、わずか二月前だった。それまでは無役で、その前は物頭だった。物頭だった三年前、三左ェ門は藩主・右京大夫の愛妾を刺殺していた。そのため、役を解かれ、禄を削られて二月前まで逼塞同様の暮らしをしていた。

刺した愛妾は連子という名だった。それが政治に興味を持ち、藩政に影響を及ぼし始めてしまった。やがて明白な失政が表面に出てきた。

だが、誰も藩主に苦言を言おうとしなかった。例外は家老の帯屋隼人正だった。帯屋は別家と尊称される家柄で、藩主家とは血縁でつながっている。

三左ェ門が連子を刺殺したのはこうした時期だった。

三左ェ門は極刑を覚悟していた。だが、もたらされた処分は意外に寛大だった。意外ではすまない、どこか腑に落ちない気分が残った。

そして、今度の近習頭取への復帰である。知らせを持ってきたのは、中老の津田民部だった。

職場は三左ェ門にとって居心地のいいものではなかった。右京大夫の態度にどこか底冷たいものが感じられたことがあった。そして、それは態度になって現れもしていた…。

津田民部は三十四で、三左ェ門よりも七つも下だが、中老になった切れ者である。

三左ェ門はいつでも近習頭取を辞めてもいいと思っている。だが、津田はいよいよ三左ェ門でなければ近習頭取は務まらない事情がはっきりしてきたという。

三左ェ門は天心独名流の達人である。それを津田は知っていた。そして、鳥刺しという必勝の剣があると聞いた、という。三左ェ門は口に運びかけた盃をおいた。

確かにある。だが、流儀の秘伝ではなく、三左ェ門が工夫し、かりに名付けた剣である。今まで誰も見たことのない剣である。

津田は詳しく調べていた。鳥刺しが別名で必死剣というのだが、その意味がわからないというのだ。

それは、絶体絶命の時にしか使わないから、そう名付けたと三左ェ門はいった。つまり、剣を遣うときは、半ば死んでいるときである。

これを聞いた津田は、ある人物が藩主・右京大夫を襲うかもしれない心配があるという。だから、その剣を役立てろというのだ。相手は直心流の名手、つまりは帯屋隼人正だった。

縁側で里尾の声がした。里尾は亡き妻の姪で、一度嫁いだが不縁になって戻ってきた娘だ。二十六になっている。
その里尾に縁談が来ていたが、三左ェ門は里尾から返事を聞いていなかった。望外の良縁と言える。

三左ェ門は里尾がいたおかげで、生活の不自由を覚えたことがなかったが、里尾の婚期を考えると胸が痛んだ。だが、里尾は嫁に行かないという…。

翌日、三左ェ門は里尾を鶴羽村の知り合いに預けることにした。

いろいろな噂が出ているらしい。右京大夫が別家の帯屋隼人正の家を潰そうとしているというのだ。財政難で苦しんでいる七万石の海坂藩にとって五千石の知行をもつ帯屋家は大身である。

そもそも帯屋家は土豪だったが、藩政の懐柔策の中で破格の扱いを受けてきた。やがて藩主家の血が入ったが、不思議なことに帯屋家を継ぐものは、藩主のもっとも痛烈な批判者となってきた。隼人正もそうだった。

三左ェ門は襖の外に異変を感じ、右京大夫にそれを告げた。そして、三左ェ門の前に現れたのは帯屋隼人正だった。
斬りかかってきた隼人正を倒したが、三左ェ門も怪我を負った。事終わったところに津田民部が現れ、三左ェ門が乱心して隼人正を斬ったと言い放った。

三左ェ門はようやくここにいたって、右京大夫が連子を殺された恨みを忘れていないことを知った。

里尾は鶴羽村のはずれで道を眺めていた。懐に赤子を抱いていた…。

隠し剣鬼ノ爪

狭間弥市郎が脱獄した。そして、狭閒弥市郎は片桐宗蔵との立ち会いを望んでいるらしい。片桐宗蔵に海坂藩の無外流の秘剣が伝授されたことに遺恨があったのだ。だが、宗蔵は狭間は誤解していると思った。授けられた秘剣は無外流の本筋とは関係のないものなのだ。

立合いの前日、狭間の妻女が宗蔵を訪ねてきた。見逃してくれないかというのだ。だが、それは無理な話だった。それが分かると、妻女は諦めて宗蔵の元を去ったが、堀奉行の所にも行ってみるつもりだといった。堀の人間性に問題があることを知っていたので、宗蔵はそれを止めた。そして、立合いの日となった。

女人剣さざ波

浅見俊之助は剣の方はからっきしだめであるが、頻繁に遊びに出かけていた。それは、容姿のよろしくない妻・邦江を見たくないためである。その俊之助が藩命で内偵を命ぜられる。内偵が上手くいき、俊之助の役目は終わったが、
それゆえに果たし合いをしなければならなくなった。

しかし、剣が遣えない。猪谷流の名手である妻邦江が夫に内緒で、代わりに立ち会うが、そこにはある決意が込められていた。

悲運剣芦刈り

曾根炫次郎は義姉の卯女とただならぬ関係になってしまった。そのことについて炫次郎は石丸兵馬に相談した。だが、結局のところは自分で解決しなければならない話である。

そして、このことで炫次郎人を斬ることになった。討手には石丸兵馬らが選ばれた。炫次郎は秘剣・芦刈りを授けられている。兵馬は芦刈りについて師匠に質問をしにいった。すると、師匠は流派の中に芦刈りを破る剣があるという。

宿命剣鬼走り

小関十太夫と伊部帯刀の因縁は、双方の子供たちの度重なる死によって抜き差しならぬものになってしまう。かつて、十太夫は大目付として、政敵である伊部帯刀と死力を尽くして抗争を演じた。こうした関係になるまでは二人の間は比較的親密なものであった。

だが、これが宿命なのだろう。十太夫はそう思うようになってきた。岸本六右衛門が曾祖父から伝わる戦場剣の秘剣鬼走りの遣い手である十太夫と帯刀の対決が近づく。

本書について

藤沢周平
隠し剣孤影抄
文春文庫 約三四〇頁
短編集
江戸時代
海坂藩ものが数編

目次

邪剣竜尾返し
臆病剣松風
暗殺剣虎ノ目
必死剣鳥刺し
隠し剣鬼ノ爪
女人剣さざ波
悲運剣芦刈り
宿命剣鬼走り

登場人物

邪剣竜尾返し
 檜山絃之助
 赤沢弥伝次

臆病剣松風
 瓜生新兵衛
 満江

暗殺剣虎ノ目
 淸宮太四郎
 牧与市右ェ門
 牧達之助
 志野
 兼光周助

必死剣鳥刺し
 兼見三左ェ門
 里尾
 津田民部
 右京大夫…藩主
 帯屋隼人正
 牧藤兵衛

隠し剣鬼ノ爪
 片桐宗蔵
 きえ
 狭閒弥市郎

女人剣さざ波
 浅見俊之助
 邦江

悲運剣芦刈り
 曾根炫次郎
 卯女
 石丸兵馬

宿命剣鬼走り
 小関十太夫
 鶴之丞
 美根
 千満太
 伊部帯刀
 伝七郎
 香信尼

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