映画「蜩ノ記」(2014年)の観賞備忘録(感想とあらすじと情報を添えて)

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感想/コメント

映画の中で流れる時間は、淡々としており、静謐なものです。そして、観終わって、心の中に流れ込むのは、温かい気持ちでした。

いろいろな展開を期待している人にとっては面白みのない映画なのかもしれません。チャンバラを期待していた人には尚いっそう残念な展開かもしれません。

ですが、これも時代劇。これこそ時代劇です。

映画のテーマは現代的です。

戸田秋谷には死が告げられています。余命が告げられているのです。告げられた死は理不尽なものでした。

その日まで、秋谷は死を見つめながら日々を過ごしていきます。それは家族もそうです。

どうにもならないことがあります。ですが、それと向き合わなければなりません。それをどう受け止めていくのか…。

さて、題名の「蜩ノ記」ですが、

秋の気配が近づくと、一日が終わるのを哀しむかのように鳴く「蜩」と、「その日暮らし」の身であるという意味を掛けて、その日記を「蜩ノ記」と名付けた。

映画は四季の風景の撮影に時間をかけています。

冬から春へ、そして夏が過ぎ、秋が来て、また冬が訪れます。

日本の式を映像として取り入れ、時の経過をそのままに表現しています。それが穏やかな気分にさせてくれます。

そして、印象的な場面においては、それぞれにふさわしいロケ地を選んでいます。

祭の場面で使われたのは、福島県喜多方市にある新宮熊野神社の長床です。

この独特の長床は一見の価値があります。福島県の会津若松市や喜多方市へ旅行に行った際には、ぜひ訪れてほしい場所です。

新宮熊野神社の参拝録(福島県喜多方市)長床(ながとこ)が有名な神社
新宮熊野神社の長床の紹介と写真の掲載。源頼義、義家親子が1055年の前九年の役で陸奥に向かう際に、紀州熊野から熊野堂村(現・河沼郡河東町)に勧請創建したのが始まりとされる。

他に印象的な場面が、庄三郎と薫が松吟尼に会うために、山門をくぐり階段を昇るときの場面でした。

庄三郎が薫に手を差し伸べる。周りを見渡し、恥ずかしそうに手を伸ばす薫。

画面上では山門と階段だけが切り取られたシーンです。奥州市の奥の正法寺が使われました。

あらすじ/ストーリー

最初の年

江戸時代。豊後・羽根藩。
奥祐筆の檀野庄三郎は、友である水上信吾に誤って墨をかけてしまう。
逆上した水上信吾が庄三郎に斬りかかってきた。

城内での刃傷沙汰は喧嘩両成敗、切腹を命ぜられても仕方ないところだったが、水上信吾が家老・中根兵右衛門の甥であったことから、切腹を免れた。
その代わりに、向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の監視を命ぜられた。

郡奉行であった戸田秋谷は藩主の側室との不義密通の罪で切腹を命ぜられていた。
だが、家譜編纂をしている戸田秋谷を惜しみ、切腹を伸ばした。
庄三郎は家譜編纂を手伝いながら秋谷を見張ることになる。もし逃げ出したりしたら妻子ともども始末するよう命じられた。

庄三郎は戸田秋谷の家で住み込むことになった。
戸田秋谷・織江夫婦、娘の薫、嫡子の郁太郎との生活が始まった。

薫は7年前に不義密通があったのかを知りたがっていたが、母・織江は父を信じよという。
なにも恥じることはない。織江は固く秋谷を信じていた。

戸田秋谷は家譜編纂をする傍らで、村の子どもたちに論語を教えていた。

慶仙和尚からの話

庄三郎が慶仙和尚から戸田秋谷は望んで今の身になったと聞かされた。
7年前、嫡男を産んだお美代の方の勢力と側室だったお由の方が生んだ子との間で家督相続を巡る御家騒動があったのだ。
そのときの騒動を、藩は家臣との不義密通として処理をしたというのだった。
庄三郎はそれを聞いてつぶやいた。何ということだ…。

この話の後、庄三郎が一人で剣の修行をしているところに戸田秋谷がやってきた。
戸田秋谷は、7年前のことは詮索無用だと庄三郎にくぎを刺した。
家中に入らざる混乱を招く…。それが理由だった。

郁太郎は農民の息子・源吉と親友だった。
侍は農民から搾取する。秋谷は農民たちと話をしていた。うまい汁を吸っているものがいる。播磨屋吉左衛門だ。
江戸に直接訴えようという者もいたが、時を待てと戸田秋谷は制した。

松吟尼からの話

季節は秋から冬へ。そして春となった。
田植えの季節となった。

庄三郎は家老・中根兵右衛門から呼び出しを受けた。この1年何をしていたのか。
庄三郎は、何もなかったので報告をしなかったのだった。だが、戸田秋谷が書きつけている日記の記載に気になる箇所があった。

松吟尼(お由の方)を庄三郎が訪ねた。秋谷と不義密通をしたとされる相手だ。
松吟尼は庄三郎から戸田秋谷がいまだに罪を許されていないことに驚いていた。自分が許されたのだから、戸田秋谷にもお許しが出ているものと思っていたのだ。
秋谷は何の釈明もしないで死ぬ気なのか…。松吟尼は当時の戸田秋谷には何の落ち度もなかったという。なぜなら何もなかったのだから。

あの日。松吟尼を襲ってきた一団があった。その一団を撃退したのが、宿直をしていた戸田秋谷だった。
だが、この襲撃で松吟尼が産んだ嫡男は殺された。
取り乱す松吟尼に戸田秋谷は松吟尼にどうか生き抜いてほしいと諭した。

事件の真相は闇に葬られ、嫡男は病死とされた。
そして、戸田秋谷に罪がかぶされ、切腹を命じられたのだった。
理不尽な。庄三郎はそう思った。

庄三郎は再び家老に報告をした。

農民達が強訴に及ぼういう話が郡奉行からあがってきた。秋谷が絡んでいるとみられたのだ。

松吟尼と薫

村に戻った庄三郎。
秋になっていた。

庄三郎は薫と一緒に祭りの見物をした。
そこに播磨屋が乗り込んできた。村人との間で喧嘩が始まった。仲裁に入ったのが庄三郎だった。村人と播磨屋の確執が浮き彫りとなった。
祭は続き、庄三郎は薫も舞う神楽の見物をして帰った。

雪深い冬。
庄三郎は戸田秋谷とともに編纂にいそしんだ。

春。
庄三郎は郁太郎の剣術の指南をした。
そこに薫がやってきて、慶仙和尚からの手紙を持ってきた。松吟尼が来ているという。
薫が一緒に行きたいと言った。松吟尼に会いたいというのだ。

庄三郎、薫、慶仙和尚、松吟尼の4名で会った。
薫は若いころの父のことを知りたいと松吟尼に頼んだ。

若いころの戸田秋谷は文武に優れ、清廉な人だったという。
松吟尼は、江戸での襲撃で殺されかけた時に、戸田秋谷との縁(えにし)を感じたという。
全ての人が縁で結ばれているわけではない。縁で結ばれているということは生きていくための支えである。
松吟尼にとっての戸田秋谷とはそうした存在だった。

ご由緒書き

薫が席を外した後、松吟尼は庄三郎に大殿が亡くなってからしばらくして届けられたものを見せた。
お美代の方のご由緒書きだという。それを庄三郎が秋谷に渡した。

庄三郎が秋谷の家に来て2年がたった。

ご由緒書きは本物だろう。だが、お美代の方には不審なところがある。
お美代の方の家の記録がどこにも残っていない。関係がありそうなのが住田五郎兵衛。福岡藩士の家だという。
何かを隠さなければならないのか…。

庄三郎を水上慎吾がたずねてきた。慶仙和尚への物を届けに来たついでだった。

話をしていると、水上慎吾が福岡に行く予定だという。
それを聞いた庄三郎は戸田秋谷に相談し、水上慎吾に住田五郎兵衛のことを調べてもらうことにした。
水上慎吾も手伝えることは手伝うという。

秋。

稲刈りの時期を巡り、農民と郡奉行が対立していた。
戸田秋谷は以前同じような天候があったときの出来事を郡奉行に伝えた。
話を聞いて郡奉行は狼狽した。立ち去る際に、悔し紛れに郡奉行は戸田秋谷と親しい農民の源吉の父を蹴飛ばした。
郡奉行が帰る道すがら、村人が後ろから追いかけてきて、殺してしまう。そして、遺骸は川に放り込まれた。

最期の年

冬。そして春。
最期の年。

水上慎吾が戻ってきて、真相を秋谷と庄三郎に伝えた。
住田五郎兵衛は播磨屋の先代だという。つまり、お美代の方は播磨屋の娘であり、旗本に養子として入れ、藩に入れたのだ。
これを大殿は気が付いていたのだった。10年前に起きたことの真相がようやく分かったのだった。

家老からの使いが来た。お美代の方のご由緒書きを渡せというのだ。そのようなものはないと秋谷は言い放った。

郡奉行が殺された一件で真っ先に疑われるのが源吉の父だ。郁太郎は源吉にそれを告げた。源吉の父は村から逃げた。
その源吉の家に役人がやってきた。そして源吉が引っ立てられた。そして、源吉は死んで戻ってきた。
郡奉行を殺した村人をばって、源吉は一切口を割らなかった。

郁太郎は源吉の死に納得がいかない。郁太郎は家老に一太刀浴びせねば納得がいかないという。
止めた庄三郎だが、郁太郎の決意は固い。一緒について行くことにした。

家老を前に、郁太郎は源吉の件を訴えた。罪のない百姓の子が殺されたことを伝えたが、家老はそんなことは知らないという。
だが、郁太郎は源吉の恨みを晴らさねばならない。家老鳩尾に刀のつかを強くあてた。
やるべきことをやった二人は牢に入れられた。

水上慎吾が戸田秋谷を訪ね、ことの次第を告げた。
お美代の方のご由緒書きを渡せば郁太郎、庄三郎をかえし秋谷の助命を願い出るという。
戸田秋谷がご由緒書きを渡すことを拒んだ。自ら郁太郎と庄三郎を引き取りに向かうという。
親として郁太郎を取り戻しに行き、父として薫の伴侶になるべき庄三郎を取り戻したいと決意した。

戸田秋谷はご由緒書きを中根兵右衛門に手渡した。
だが、これは紙切れ同然になっている。寺の記録として記すよう頼んでおいたのだ。いずれ誰かが真相に気づく。
何をたくらんでいると中根兵右衛門は疑うが、戸田秋谷には邪心はなかった。戸田秋谷は約束の日に切腹すると、中根兵右衛門に告げた。

中根兵右衛門は庄三郎と郁太郎の許しを与え、二人を連れて帰った。辞する際に、秋谷は中根兵右衛門を殴った。
殴られた中根兵右衛門は、秋谷から想いを受け継いだ。大きな借りができた。そう感じていた。

家譜編纂が終わった。
庄三郎と薫が夫婦となった。
郁太郎も元服した。
織江との最期の別れも済ませた。蜩が鳴いていた。

全てを終え、身を清め、死に装束で秋谷は家を出た。家族が見送っていた。
戸田秋谷は一度振り返った。かすかに微笑み、そして、歩いて行った。

映画情報(題名・監督・俳優など)

蜩ノ記
(2014年)

監督:小泉堯史
原作:葉室麟『蜩ノ記』
脚本:小泉堯史、古田求
音楽:加古隆

出演:
戸田秋谷/役所広司
檀野庄三郎/岡田准一
戸田薫/堀北真希
戸田織江/原田美枝子
水上信吾/青木崇高
松吟尼(お由の方)/寺島しのぶ
大殿・兼道/三船史郎
慶仙和尚/井川比佐志
中根兵右衛門/串田和美
戸田郁太郎/吉田晴登

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