原題は「臥虎蔵龍」。英語の題名は「Crouching Tiger , Hidden Dragon」。
原作は、1920年代に上海の作家・王度廬(ワン・ドウルー)が書いた4巻になる武侠小説です。
考察と感想
「臥虎蔵龍」は、場所が見かけ通りでないことを表す中国の古い格言をもとにしています。
題名には、本作の登場人物の個性が反映されています。
英雄リー・ムーバイの内側に潜む愛。
女武侠ユー・シューリンの穏やかな外見の下の熱い想い。
政略結婚を強いられる若い貴族の娘イェンの可憐な姿からは想像も出来ない秘めた激しい愛と武術の技。
それぞれが表面からでは窺い知れないものを内に秘めて生きています。
ですから、邦題のように「グリーン・デスティニー」としてしまうと、何のことだかわからなくなってしまうことになります。
日本語に該当することわざや格言がないから仕方ないのかもしれませんが…。
19世紀初め
舞台となる19世紀初めは、老荘哲学(道教)の価値が尊重され、武術の英雄たちが尊敬されていました。
400年前に作られ、太古のパワーに満ちた秘剣・碧名剣(グリーン・デスティニー)を巡り、英雄リ-・ム-バイ、その女弟子であるシュ-リン、貴族の娘イェン、盗賊の頭ローらが激しく交錯します。
本作のような映画は、中国圏においては武侠片(英雄時代劇映画)と呼ばれ、映画や小説で非常に高い人気を誇っているジャンルです。
共通するのは、主人公たちが人間の領域を超えたパワーを持ち、剣やカンフーの達人ということです。
さしずめ、日本でいえば剣豪ものの時代劇といったところでしょうか。
ワイヤーアクション
武侠もの映画は、アクション場面はあり得ない動きをするところに特色があります。いわゆるワイヤーアクションです。
これがスピード感を持たせ、あるときには優雅さすら感じさせます。この優雅さが一種のファンタジー的な一面を映画にもたらします。
悪くいえばニセモノの人間の動きですので、ワイヤーアクションが好きでないという人は、本作を見ても面白くないでしょう。
そうでなければ、それなりに楽しめると思います。
公開当時、欧米圏ではワイヤーアクションは斬新な手法で高評価を得ました。そして、以降の映画に大きな影響を与えています。
音楽
音楽が良いです。チェロ演奏がヨーヨー・マということが大きな要素ですが、それ以上に、この映画にマッチしたスコアであることが重要な要素です。
武侠ものには、一種の悲劇的な要素がなければならないと思います。
単なる英雄譚では面白みがありません。人智を超越した技量の持ち主が、その超越した力を持ってしても回避できない事故や死というものと直面しなければなりません。
一種の滅びの美学を表現するということですが、これを盛り上げる音楽が、壮大な英雄賛歌であっては困ります。
限りなく情緒のあるもの悲しさの漂う音楽でなければなりません。
こうした点、本作の音楽は、まさにぴったりです。低音で感情の入ったチェロが心に染み入ります。
ロケ地
竹林の場面は、四川省の宜賓市で撮影されました。蜀南竹の竹林は広大だそうです。
同じく四川省。九寨溝もロケ地になりました。チベット仏教ゆかりの寺院が点在する地域です
標高2000〜3100mの高地に原生林が広がり、エメラルドブルーをはじめ、光のかげんによって色を変える棚田状の池「海子(ハイズ)」が点在しています。
海子(ハイズ)は全部で108個あると伝えられています。108は煩悩の数です。
ワイヤーアクションで湖面の上を飛ぶシーンは、安徽省黄山市の宏村の南湖で撮られました。
武侠小説の系譜
原作者の王度廬(ワン・ドウルー)は旧武侠小説と呼ばれる作家群に属します。
1920年代から1940年代にかけて書かれた武俠小説は、香港や台湾で1950年代以降に書かれた武侠小説と区別されて旧武俠小説と呼ばれます。
一方で、1950年代以降に香港や台湾で書かれるようになった武侠小説を新武侠小説と呼んでいます。
新武侠小説の代表的な作家として金庸、梁羽生、古龍がいます。この3人を指して3大作家と呼ばれます。金庸の作品はほとんどが日本語に翻訳されており、文庫等で入手しやすいです。
新武侠小説の中から、梁羽生の「七剣下天山」を原作に映画化されました。「セブンソード」です。
日本の小説家の中にも武侠小説を書いている作家がいます。武田泰淳や田中芳樹です。武田泰淳の「十三妹」でシイサンメイの読みが知られるようになりました。
本作の続編である「Crouching Tiger Hidden Dragon: ソード・オブ・デスティニー」がネットフリックスの オリジナル作品として、2016年2月26日から世界同時配信されました。
日本国内で雰囲気を味わえる竹林
竹林を見ると本作を思い出します。日本国内には有名な竹林が数多くありますので、雰囲気に浸ってみてはいかがでしょうか。
最も有名なのが、京都の竹林の小径ではないかと思います。
関東にも有名な竹林があります。鎌倉の「竹の寺」報国寺や、水戸の偕楽園の竹林も見事です。
次の映画もおススメです。
- 「HERO」(2002年)…謎の男、無名の語りが軸となり、何が真実なのかわからない複数の物語が入り乱れていく。
- 「LOVERS」(2004年)…唐の時代。凡庸な皇帝と政治の腐敗から各地に叛乱勢力が台頭していた。
- 「プロミス-無極-」(2005年)
- 「ドラゴン・キングダム」(2008年)
あらすじ/ストーリー/ネタバレ
(以下は基本的に公式HPからの抜粋です。なお、公開当時の公式HPは閉鎖されました。)
グリーン・デスティニーを預けるリー・ムーバイ
清の時代。
天下の名剣・碧名剣(グリーン・デスティニー)の使い手として名を轟かせるリー・ムーバイ(チョウ・ユンファ)は、剣を置く決意をした。
リー・ムーバイはム-ダン山での瞑想修行を途中で切り上げ、女弟子ユー・シュ-リン(ミシェル・ヨ-)の元へやって来た。
リー・ムーバイは、荷送の警護で北京に行くユー・シュ-リンに、彼の碧名剣をティエ氏(ラン・シャン)に届けるように頼む。
リー・ムーバイは自分の師匠を殺したジェイド・フォックス(碧眼狐)を探し求めていた。
しかし、時は流れ、剣を置く決意をして、その許しを乞うために墓参りの旅を考えていた。
北京に着いたユー・シューリン
北京に到着したユー・シュ-リンは、剣をティエ氏に渡し、彼の邸に泊まることとなる。
二人のことを昔から知るティエ氏は、リー・ムーバイの引退が二人の結婚を意味すると思った。
だがユー・シュ-リンはそれを否定する。
二人は密かに惹かれ合っていたが、愛する気持ちがあっても、師弟ではそれが許されるものではなかった。
貴族の娘イェン
ティエ氏の書斎へ剣を置きに行ったユー・シュ-リンは、そこで貴族のユィ長官の娘イェン(チャン・ツィイー)に出会う。
イェンは、西方で行政長官を務めていた父親の北京への赴任に伴い、両親の野望のため有力な一門ゴウ家に嫁ぐことになっている。
碧名剣を見て、結婚するよりもユー・シュ-リンのような武侠になりたいという。
ユー・シュ-リンは結婚が女の幸せだと諭すのだった。
グリーン・デスティニーが盗まれる
その夜、ティエ邸に賊が忍び込み、碧名剣が盗まれる。
夜間警護のボーが賊を発見し、邸内は大騒ぎとなる。
ユーもすぐに駆けつけて賊と戦うが、賊の右手を負傷させ後一歩のところまで追い詰めたところで何者がのじゃまが入り、取り逃がしてしまう。
賊がユイ長官邸内に消えたと報告を受けたティエ氏は、リー・ムーバイを呼ぶことにする。
長官邸近辺では、ジェイド・フォックスの人相書きが貼られていた。
賊はもしかするとイェンではなかったのかという疑問を持ちながら、ユー・シュ-リンはそれを確かめるために彼女を訪ねる。
賊の捜索
彼女のそばには家庭教師(チェン・ペイペイ)がいてユー・シュ-リンの来訪に不快感を示すが、イェンは喜んでユー・シュ-リンを迎え入れる。
賊なら負傷させた右手は使えないはずだが、彼女はユーの目の前で見事に筆で書した。
イェンはユー・シュ-リンに姉になるように頼み、ユーはそれを快く受け義姉妹の契りを交わしたのだった。
一方、ボーは妻の仇を討つためにジェイド・フォックスをこの地まで追って来たという西の警官ツァイとその娘を知る。
そこヘジェイド・フォックスから決闘状が届き、三人は待ち合わせ場所へ向かう。
現われたジェイド・フォックスはイェンの家庭教師だった。
ジェイド・フォックス
ジェイド・フォックスは賊の隠れ蓑として、貴族の使用人の顔を使い分けていたのだった。
ジェイド・フォックスの強さに手も足も出ない彼らの前に、リー・ムーバイが現われ対決する。
リー・ムーバイにとっても、ジェイド・フォックスは長年捜し続けていた師匠の仇。
だが、リー・ムーバイのとどめの一撃が加わろうとしたその時、覆面をしたジェイド・フォックスの弟子が碧名剣を持って現れる。
その一瞬の隙を縫ってジェイド・フォックスはツァイを殺し、弟子を連れて逃げおおせてしまう。
犯人が長官邸にいるとわかり、ジェイド・フォックスを誘い出すためにユー・シュ-リンはイェンに昨夜の闘いで西の警官ツァイが死んだことを伝え、碧名剣が戻ることが解決の一つだと話す。
ジェット・フォックスの弟子
その夜、ティエ邸に碧名剣を返しにジェイド・フォックスの弟子が現われるが、それを待ち受けていたのはリ-・ム-バイだった。
ジェイド・フォックスの弟子の正体がイェンだと分かったリ-・ムーバイは、剣の才能を見抜きイェンを正しい武術の道に導きたいと言う。
しかしイェンは剣を置いて逃げ、家庭教師のジェイド・フォックスに警官殺人を犯した以上、自分の家から出て行くように促す。
一方、リー・ムーバイはユーにイェンを弟子にしたいと相談するが、ユー・シュ-リンはそのまま結婚させるほうが望ましいと話す。
それは自分と同じ道を歩ませたくないという彼女の姉心だった。
盗賊の頭ロー
そしてイェンにも心乱れることが起こる。
ある夜、砂漠で永遠の愛を誓った盗賊の頭ロー(チャン・チェン)が夜中にイェンをたずねて忍んできた。
ローは、北京に赴任途中のイェン一家の幌馬車を襲い、イェンをさらっていったが、いつしか彼女を愛するようになり、立派な人間になって彼女と結婚することを誓って彼女を解放したのだった。
けれど、すでに政略結婚が決まっている彼女は彼に別れを告げなければならなかった。
臥虎蔵龍
イェンを諦めきれないロー。
式直前で自由への夢とローへの想いに揺れるイェン。
イェンに正しい道を学ばせようとするリー・ムーバイ。
イェンに普通の女の幸福を願うユー・シュ-リン。
姿をくらましたジェイド・フォックス。
そして、いよいよ結婚式の当日…。
映画情報(題名・監督・俳優など)
グリーン・デスティニー
(2000年)
監督:アン・リー
アクション監督:ユエン・ウーピン
製作:ビル・コン、シュー・リーコン、アン・リー
製作総指揮:ジェームズ・シェイマス、デヴィッド・リンド
原作:ワン・ドウルー
音楽:タン・ドゥン、ヨーヨー・マ
主題歌:ココ・リー
出演:
リー・ムーバイ/チョウ・ユンファ
ユー・シューリン/ミシェル・ヨー
イェン/チャン・ツィイー
ロー/.チャン・チェン
テイエ氏/ラン・シャン
碧眼狐(ジェイド・フォックス)/チェン・ペイペイ
ユィ長官/リー・ファーツォン
ユー夫人/ハイ・イェン
ツァイ/ワン・ターモン
メイ/リーリー
受賞
本作は、第73回米国アカデミー賞で作品賞など10部門にノミネートされ、4部門(美術賞、撮影賞、作曲賞、外国語映画賞)で受賞しました。
2000年公開の映画