原題は「Butch Cassidy and the Sundance Kid」。主人公二人の名前が映画タイトルになっています。
実在の銀行強盗ブッチ・キャシディとザ・サンダンス・キッドをモデルにしている映画です。
舞台となるのは1890年頃のアメリカ西部。
1969年のアメリカ映画。アメリカン・ニューシネマの傑作とされるので、反体制的な色合いの強いギャング映画なのかと思っていました。
それこそ、権力に屈せず、ひたすらあがく姿が描かれるのかと思っていたのです。
全く違っていました。主人公二人の青春グラフィティの要素が強いように感じた映画です。
特にそう感じたのは、ブッチとエッタが自転車に乗ってデートするシーンです。
ここで有名な「雨にぬれても」(Raindrops Keep Fallin’ On My Head)が使われるのですが、開放的で牧歌的な音楽は、ギスギスするギャング映画とは程遠い印象を与えます。
この映画はやはり青春グラフィティなのだと感じたシーンです。
ブッチ・キャシディとザ・サンダンス・キッドの二人は、そもそも権力に立ち向かうという気はありません。
追われれば逃げ、生き延びて、自分たちが勝手気ままに生きられる土地へ行くことを夢見ます。
アメリカを追われボリビアへ行き、最期の時にはオーストラリアを夢見ます。
彼らの理想郷はどこだったのでしょうか。
色使いも特徴的で、セピア色を効果的に使っています。
始まりのシーンからしばらくセピア色。そして、転換点となるボリビア行のシーンもセピア色。
ラストシーンのストップモーションは映画史に残る屈指の名シーンとして知られます。
コメント
主題歌「雨にぬれても」
主題歌は「雨にぬれても」、原題「Raindrops Keep Fallin’ On My Head」。有名な曲なので、知っている人が多い曲だと思います。
曲は以前から知っていましたが、この映画の主題歌だとは知りませんでした。流れ始めたときには正直びっくりしました。
作詞はハル・デヴィッド(Hal David)、作曲はバート・バカラック。歌はB・J・トーマス。ビルボード誌で1970年1月3日に週間ランキング第1位を獲得。同誌の1970年の年間ランキングで第1位。
感想
ロバート・レッドフォードはこの映画で抜擢されてスターダムを駆け上がることになります。
そのチャンスを与えたのが、ポール・ニューマンでした。
この映画で共演したポール・ニューマンとロバート・レッドフォードはのちに「スティング」で再共演を果たします。
それにしても、若い頃のロバート・レッドフォードとブラッド・ピットは雰囲気がよく似ています。
全てのアメリカ人が理想とする美男の典型が若き日のロバート・レッドフォードと言われますので、ブラッド・ピットが出てきたときに、アメリカで受け入れられた理由がとてもわかります。
二人の雰囲気で違うところと言えば、ロバート・レッドフォードには知性を感じるところがあり、ブラッド・ピットにはワイルドさを感じさせるところがある、というくらいでしょうか。
さて、ロバート・レッドフォードの方が知性を感じさせ、かつ、優男な感じなのに、映画では知性担当のブッチはポール・ニューマンで、腕っぷし担当のサンダンスがロバート・レッドフォードです。
この二人は完璧なコンビに見えますが、映画が進むにつれ、二人それぞれに弱点があることがわかります。
ブッチは人を撃ったことがありません。サンダンスは泳げません。このために、笑うに笑えない状況で、困ったことになります。
ですが、二人は互いを見捨てることなく、助け合いながら生き延びようとします。
こんな二人が追い詰められいく転換となるのが、列車強盗です。
行きと帰りで襲うという計画でした。この列車強盗で奪われたのが、行きも帰りもユニオン社の金だったのです。
図らずも、いずれの場合もお金を守っていたのが金庫番のウッドコック。気の毒なのですが、コミカルに見えなくもありません。
ブッチもサンダンスもウッドコックのことが嫌いではないらしいです。できれば手荒なことはしたくないように見えます。
ですが、2回も金を奪われて怒ったのがユニオン社の社長。追跡名人のバルチモア卿と、凄腕保安官のレフォーズらを雇って、二人を始末させるために執拗に追いかけさせました。
ここで二人が立ち向かうことをせずに、さっさと逃亡してボリビアへ逃げていきます。
ボリビアを選んだのは、ブッチの情報では、好景気に沸いているからと聞いていたからなのですが、これが全然好景気でなく、しけていたから大変です。
サンダンスは憮然とします。しかもスペイン語圏で、二人とも言葉に苦労する羽目に…。
アメリカン・ミソジニー物語の定型
内田樹氏は「ハリウッド映画で学べる現代思想-映画の構造分析-」でハリウッド映画が女性嫌悪イデオロギー(ミソジニー)で満たされていることを指摘しました。
そこには物語の構造があり、アメリカン・ミソジニー物語の定型は次の通りです。
- 女は必ず男の選択を誤り、間違った男を選ぶ。
- それゆえに女は必ず不幸になる。
- 女のために仲間を裏切るべきではない。
- 男は男同士でいるのがいちばん幸福だ
この定型をハリウッド映画は執拗に反復し続けてきたと述べています。
その典型として、「カサブランカ」や「明日に向って撃て!」、「バンディッツ」を挙げています。
女性嫌悪イデオロギーの歴史は、アメリカのフロンティア開拓の歴史が影響していると考えています。
詳細は本書でご確認を頂きたいのですが、ほぼ二世紀にわたってフロンティアの全域で繰り返し語られたであろう、選ばれなかった男たちの怨念を鎮魂する喪の儀式を誰かが執り行わなければなりません。
内田樹氏は、その祈りの一つがアメリカ文化に横溢する女性嫌悪の物語と考えています。
映画情報(題名・監督・俳優など)
明日に向って撃て!
(1969年)
監督 / ジョージ・ロイ・ヒル
製作 / ジョン・フォアマン
製作総指揮 / ポール・モナシュ
脚本 / ウィリアム・ゴールドマン
撮影 / コンラッド・L・ホール
特撮 / L・B・アボット
美術 / フィリップ・M・ジェフリーズ,ジャック・マーティン・スミス
編集 / ジョン・C・ハワード,リチャード・C・メイヤー
作詞 / ハル・デヴィッド
音楽 / バート・バカラック
出演:
ポール・ニューマン / ブッチ・キャシディ
ロバート・レッドフォード / サンダンス・キッド
キャサリン・ロス / エッタ・プレース
ストローザー・マーティン / パーシー・ギャリス
クロリス・リーチマン / アグネス
ジョージ・ファース / ウッドコック
ジェフ・コーリイ / ブレッドソー保安官
テッド・キャシディ / ハーヴェイ・ローガン
ケネス・マース / マーシャル
ドネリー・ローズ / メイコン
チャールズ・ディアコップ / 鼻ぺちゃカリー
ティモシー・スコット / ニュース・カーヴァー
映画賞など
第42回アカデミー賞
- 撮影賞:コンラッド・L・ホール
- 脚本賞:ウィリアム・ゴールドマン
- 作曲賞:バート・バカラック
- 主題歌賞:『雨にぬれても』
第27回ゴールデングローブ賞
- 音楽賞:バート・バカラック
第24回英国アカデミー賞
- 作品賞
- 主演男優賞:ポール・ニューマン,ロバート・レッドフォード
- 主演女優賞:キャサリン・ロス
- 監督賞:ジョージ・ロイ・ヒル
- 脚本賞:ウィリアム・ゴールドマン
- 作曲賞(アンソニー・アスクィス映画音楽賞):バート・バカラック
- 撮影賞:コンラッド・L・ホール
- 編集賞:ジョン・C・ ハワード,リチャード・C・マイヤー
- 音響賞:ドン・ホール,デヴィッド・ドッケンドルフ,ウィリアム・エドモンソン
1970年 グラミー賞
- 最優秀映画/テレビ作曲賞:バート・バカラック
映画ベスト100
1969年前後の興行収入ランキング
- 1968年興行収入ランキング
- 1969年興行収入ランキング
- 1970年興行収入ランキング