ミステリー・サスペンス映画の傑作だと思います。初めて見たときは、まさに衝撃的でした。
公開当時はミニシアターブームで、渋谷のシネクイントで見ました。渋谷のパルコ前からスペイン坂にかけて行列ができていたように記憶しています。
ミニシアター・ブームの中で記憶に残るのが「アメリ」で、シネクイント向かいのシネマライズ(Cinema Rise)で上映されていました。ちょうど商業化されすぎた映画に、皆が飽きていた時期だったように思います。
この映画が突き付けるのは人の記憶の不確かさであり、同時に生きるということの意義です。
映画タイトルのメメントはラテン語の「思い出せ」から由来し、記憶、記念品、形見という意味があります。
また、原作のタイトルは「メメント・モリ」で、自分がいつか死ぬことを忘れるなというラテン語の警句です。
そこから、死を記憶せよ、死を想えという意味になります。
記憶と死が密接に絡み合うタイトルで、映画もその通りの内容になっています。
コメント
逆回転しながら進む映画
時間軸が逆回転しながら進み、途中で正回転の時間軸とが交差していくという手法は斬新でした。
真逆の時間軸が交錯するため、ストーリーを理解できない、ストーリーを追えない、ストーリーを組み立てられない、という人が多かったようです。
ですが、これがまさに監督の意図するところだったのだろうと思います。
主人公レナード・シェルビーは短期記憶を保持できない病気にかかっています。
時間軸を交錯させることによって、観る側にも疑似体験させようということでしょう。
時間軸を交錯させることによって、観客は頭の中で時間軸の整理を始めます。
ですが、整理している間にも話が進んでいき、やがて観ている側は、映画の最初の方の出来事を忘れてしまいます。
難しいという人も多いようですが、難しいのはストーリーそのものよりも、時間軸の整理です。
時間軸の整理がつけば、ストーリー自体は複雑ではありません。
この映画の発端となる事件のあらましをテディが解き明かしてくれるからです。
ですが、本当の真実は何だったのか、という疑問が湧きます。
レナードの前向健忘性になる前の記憶が正しいのか、それとも、テディの言うことが正しいのか…。
記憶は真実か?
レナード・シェルビーは平凡な保険会社の調査員でした。
有能な調査員でしたが、自宅に侵入してきた謎の男によって、妻が強姦されたうえに殺されてしまいました。
その場でレナードは犯人を射殺しましたが、犯人はもう一人いて、その男に頭を殴られ、短期記憶を失う前向性健忘という記憶障害になります。
レナードは自分を殴った犯人への復讐を誓い、犯人捜しをしていますが、記憶障害のため、メモをとり、きわめて重要な情報は体に入れ墨を入れるようにしていました。
分かっている犯人の名前は「ジョン・G」です。
ですが、そもそもレナードの記憶している妻の死の記憶が、実は真実の記憶でなかったとしたら?
レナードは、自分のように前向健忘性だった男を知っていました。
サミーと言いました。
サミーの妻は、本当に彼が前向健忘性なのかを試しました。
妻は糖尿病だったので、定期的なインシュリン注射が必要で、それを夫のサミーにお願いしていました。
ですが、注射をしすぎると死に至ります。
サミーは前向健忘性だったので、妻からお願いされると、ついさっき注射をしたことも忘れて注射をしてしまいます。
そして、ついに過剰投与で妻が死んでしまいます。
実は、このサミーというのはレナード本人で、レナードが妻をインシュリンの過剰投与で死に至らしめてしまったのです。
サミーという男は確かにいたのですが、詐欺師で、レナードがそのことを暴いたのでした。
これが真実だとすると、レナードの中で記憶のすり替えが行われたことになります。
そうだとすると新たな疑問が湧きあがります。
これは記憶のすり替えなのか、それとも真実なのか…。
もし、レナードが妻をインスリンの過剰投与で亡くしたのだとすると、それは前向健忘性になってからです。
短期の記憶しか保持できないレナードに、この出来事の記憶のすり替えができるはずがなありません。
しかし、前向健忘性が心因性だということであれば、記憶のすり替えということもあり得るかもしれません。
そうであれば、レナードは妻にインスリンを過剰投与したという記憶を持っていることになります。
記憶がなければ、記憶のすり替えはできないのですから。
結局のところ、ここで生じる謎は、レナードの妻はなぜ死んだのか?です。
レナードの記憶通り、強盗に入られて殺されたのか。それとも、レナードによるインシュリンの過剰投与によるものだったのか。
レナードの前向健忘性になる前の記憶が正しいのか。それとも、テディの言うことが正しいのか。
テディとレナードの関係
テディとレナードの関係も謎です。
テディが称する警察官という身分は、この場合大事ではありません。謎には関係がないからです。
謎なのは、レナードの妻の身に降りかかった災難当時から知り合いであるようなのに、レナードがテディに関する情報を残していない点です。
重要なことは体に入れ墨で残すのに、それをしていません。サミーについては残しているというのに…。
では、テディが言っていることすべてが嘘なのかというと、そうでない可能性が高いのです。
なぜなら、レナードが前向健忘性であることを知っており、自分が話したことはすぐに忘れることを知っているからです。
真実すらすぐに忘れてしまうのですから、嘘をついても仕方がありません。
テディの言うことが正しければ、事件が起きてからの付き合いになります。
2~3年程度経っていることになるのですが、レナードは体に刻み込んでいません。
テディは本当にレナードの妻の身に降りかかった事件からレナードと関わってきたのでしょうか?
テディが知っていることが、仮に他人から聞いた内容だけだとしても、かなり踏み込んだことまでも知っていますので、最近はレナードに近いところにいたのは間違いなさそうです。
とはいえ、当初から知っていたかとなると、疑問です。
この疑問は永遠に解かれることはありません。なぜなら、映画の冒頭の通り、テディは殺されてしまうからです。
映画情報(題名・監督・俳優など)
メメント
(2000年)
監督 / クリストファー・ノーラン
製作 / ジェニファー・トッド,スザンヌ・トッド
製作総指揮 / クリス・J・ボール,アーロン・ライダー,ウィリアム・タイラー
原案 / ジョナサン・ノーラン
脚本 / クリストファー・ノーラン
撮影 / ウォーリー・フィスター
編集 / ドディ・ドーン
音楽 / デヴィッド・ジュリアン
出演
レナード / ガイ・ピアース
ナタリー / キャリー=アン・モス
テディ / ジョー・パントリアーノ
バート / マーク・ブーン・Jr
サミー / スティーヴン・トボロウスキー
レナードの妻 / ジョージャ・フォックス
サミーの妻 / ハリエット・サンソム・ハリス
トッド / カラム・キース・レニー
ジミー / ラリー・ホールデン
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