新海誠監督による、東日本大震災を念頭に置いた映画です。
本作を皮切りに、「天気の子」(2019年)、「すずめの戸締まり」(2022年)と災害をモチーフにした映画が公開されました。
最後の「すずめの戸締まり」は、直接的に地震を扱いましたので、「すずめの戸締まり」で鎮魂の物語にひと段落がつきました。
初めてタイトルを見た時には、昔の「君の名は」のリメイク/リブート作品かと思いました。とはいえ、名前だけは知っていて、内容は全然知らないのですけど…。
そう思ったものの、本作の映画のタイトルに、句点「。」がつけられているので、なんだろう?とも思いました。
普通なら疑問符「?」が付くのではないかと思いますが、そうではなく、あえて句点「。」が付いていることに、不思議な感じがしたのです。
英語のタイトルも「Who You Are ?」ではなく、「Your Name .」で、同じく句点「.」を付けています。
ここに新海誠監督の意図があるように思いました。
次のインタビューでタイトルについての新海監督の意図が語られています。
新海:有名な先行作品(※1)があることはもちろん承知の上で、これしかないとこのタイトルに行きつきました。かなり迷ったのですが、最初は仮タイトルとして小野小町の和歌から『夢と知りせば』というタイトルを付けていたり、あとは『かたわれの恋人』だったこともありました。でも何か足りないという気持ちがあって。
※1:1952年にラジオドラマとして放送された『君の名は』。1953年に映画、1962年・1966年・1976年・1991年・2012年にTVドラマとして放送されています。
実は『君の名は。』というタイトルは頭から候補の中にあったんです。ただそれは有名な作品があるからっていう気持ちが大きくて、候補の上のほうに上がってこなかったんです。でも、去年の12月に東宝の今年の映画作品のラインナップの発表があるからタイトルだけでも決めなければいけなくて、もう一回脚本を読み直したんです。そうしたら、「君の名前は」ってふたりとも何度も叫ぶ訳ですよね。もう言ってる、こればっかり言っていると(笑)。
一同:(笑)。
新海:だからやっぱりこれで良いんだと思いました。タイトル先行で物語を書いた訳ではないけど、作中で何度もお互い問いあっているんです。「君の名は」で断絶してしまう個所もあれば、「君の名は」から始まる個所もあると。であるならば断絶するというところと、ここから始まる必ずしも問いではないというところから、句点を付けて少し差別化を入れました。20代以下の、場合によっては30代以下の方はこの作品で初めてこのタイトルに触れるという人も多いと思いますが。
https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1472453958
このインタビューから、句点「。」を付けることによって、複数の意味を持たせていることが分かります。
感想/コメント
「君の名は。」(2016年)から始まる、「天気の子」(2019年)、「すずめの戸締まり」(2022年)では、神社などの日本古来からの宗教施設が重要な役割を果たします。
いずれの映画も、自然災害を描いており、日本には古来から強く自然に対する畏敬の念があることを、神社などを通じて表しているのだろうと思います。
本作では、宮水神社がたびたび登場し、重要な場所として描かれました。
映画のポスターにもなっている、最後のシーンでも、左手に見えるのは神社です。
ちなみに、モデルになっているのは、東京・四谷の須賀神社です。主祭神は須佐之男命と宇迦能御魂神です。
映画に神社を登場させることで、鎮魂の意味を持たせているのかもしれません。
周期性
大地震は周期的に起きますが、同じく周期的に訪れるものとして彗星があります。
古来より彗星は不吉なことが起きる前兆として、世界各地で恐怖の的になっていました。
禍々しいものの代表とされてきたのが彗星です。
その彗星を映画で登場させた意図がインタビューで述べられています。
――ちなみにこの企画が始まったのは、東日本大震災の前ですか?後ですか?
後です。東宝に最初の企画書を出したのが2014年の7月です。6月ぐらいに2週間ぐらいで書き上げました。
――震災のことは最初から念頭にありましたか?
この企画書の中で、すでに周期性の災害をもたらすものとして彗星を出しています。そして、地震も周期性の強い現象です。2011年以降、日本人の多くは「僕らは周期的に揺れる地面の上に住んでいる」ということを思い出したはずです。本作は「震災をモチーフにした映画を作ろう」という考えではありませんでしたが、2011年以降に発想した物語として、人が住んでいる場所に周期的に何かをもたらしてしまうものを物語に入れ込もうというのは、自然な成り行きだったのだと思います。
https://www.huffingtonpost.jp/2016/12/20/makoto-shinkai_n_13739354.html
2つの階層
本作は2つの階層でできていますが、インタビューでもそのことを新海監督が語っています。
『君の名は。』の物語は、大きく分けて2つのレイヤーがあります。
表面のレイヤーとしては、ボーイ・ミーツ・ガールです。少年と少女が出会い、少年が少女を失い、もう1度出会うという図式です。伝統的なボーイ・ミーツ・ガールのストーリーラインを踏襲しています。直球のボーイ・ミーツ・ガールへの渇望や需要が、日本の若い観客にあったんじゃないかと思います。
もう1つのレイヤーが『君の名は。』には、あります。ボーイ・ミーツ・ガールの下側にあるものは、少女が夢のお告げで人々を災害から救うという話です。2011年以降、僕たち日本人は「もしも自分があなただったら…」と常に考えるようになったと思うんです。言い換えれば、今の自分とは違う自分があったかもしれないという感覚です。「もしも自分があのとき、あの場所にいたら」とか、「もしも明日、東京に大きな災害が起きたら…」とか。それは、思いやりが深くなったというよりは、常にそうなる可能性があるということを突きつけられて、意識下に染みついてしまったという印象です。
『君の名は。』は、男女の入れ替わりで始まります。ヒロインの宮水三葉(みやみず・みつは)が、東京の男の子になるコミカルな話ですが、最終的には東京の立花瀧(たちばな・たき)が「もしも自分が、消えてしまったあの町に住んでいたら…」と考える物語に変わります。僕たちが2011年以降にずっと想像していた「もしも私があなただったら…」という想像力が、そのまま映画の中にあります。それが無意識のうちに、たくさんの日本人の観客にリンクしたのかもしれない、と思っています。
https://www.huffingtonpost.jp/2016/12/20/makoto-shinkai_n_13739354.html
あらすじ
千年ぶりとなる彗星の来訪を一か月後に控えた日本。
http://www.kiminona.com/
山深い田舎町に暮らす女子高校生・三葉は憂鬱な毎日を過ごしていた。
町長である父の選挙運動に、家系の神社の古き風習。
小さく狭い町で、周囲の目が余計に気になる年頃だけに、都会への憧れを強くするばかり。
「来世は東京のイケメン男子にしてくださーい!!!」
そんなある日、自分が男の子になる夢を見る。
見覚えのない部屋、見知らぬ友人、目の前に広がるのは東京の街並み。
念願だった都会での生活を思いっきり満喫する三葉。
一方、東京で暮らす男子高校生、瀧も、奇妙な夢を見た。
行ったこともない山奥の町で、自分が女子高校生になっているのだ。
繰り返される不思議な夢。そして、明らかに抜け落ちている、記憶と時間。
二人は気付く。
「私/俺たち、入れ替わっている!?」
いく度も入れ替わる身体とその生活に戸惑いながらも、現実を少しずつ受け止める瀧と三葉。
残されたお互いのメモを通して、時にケンカし、時に相手の人生を楽しみながら、状況を乗り切っていく。
しかし、気持ちが打ち解けてきた矢先、突然入れ替わりが途切れてしまう。
入れ替わりながら、同時に自分たちが特別に繋がっていたことに気づいた瀧は、三葉に会いに行こうと決心する。
「まだ会ったことのない君を、これから俺は探しに行く。」
辿り着いた先には、意外な真実が待ち受けていた……。
出会うことのない二人の出逢い。
運命の歯車が、いま動き出す。
映画情報(題名・監督・俳優など)
監督 / 新海誠
原作 / 新海誠
脚本 / 新海誠
製作 / 市川南,川口典孝,大田圭二
企画 / 川村元気
プロデュース / 川村元気
エグゼクティブプロデューサー / 古澤佳寛
プロデューサー / 武井克弘,伊藤耕一郎
共同製作 / 井上伸一郎,弓矢政法,畠中達郎,善木準二,坂本健
キャラクターデザイン / 田中将賀,安藤雅司
作画監督 / 安藤雅司,井上鋭,土屋堅一,廣田俊輔,黄瀬和哉
演出 / 居村健治
オープニング作画監督 / 田中将賀
回想シーン演出・原画・撮影 / 四宮義俊
脚本協力 / 加納新太
プロップ設定 / 岩崎たいすけ
巫女舞創作・振付 / 中村壱太郎
美術監督 / 丹治匠,馬島亮子,渡邉丞
美術設定 / 高橋武之
美術設定協力 / 滝口比呂志
色彩設計 / 三木陽子
色指定検査 / 仲條貴子
撮影チーフ / 福澤瞳
撮影 / 三木陽子,李周美,藤田賢治,津田涼介,八木昌彦,岩井和也,新海誠
3DCGチーフ / 竹内良貴
3DCG / 宮原眞,河合完治,山元隼一
音響監督 / 山田陽
整音 / 山田陽
音響効果 / 森川永子
編集 / 新海誠
音楽 / RADWIMPS
主題歌 / RADWIMPS
音楽プロデューサー / 成川沙世子
制作プロデューサー / 酒井雄一
制作 / コミックス・ウェーブ・フィルム
立花瀧 / 神木隆之介
宮水三葉 / 上白石萌音
奥寺ミキ / 長澤まさみ
宮水一葉 / 市原悦子
勅使河原克彦 / 成田凌
名取早耶香 / 悠木碧
藤井司 / 島崎信長
高木真太 / 石川界人
宮水四葉 / 谷花音
宮水トシキ / てらそままさき
宮水二葉 / 大原さやか
瀧の父 / 井上和彦
勅使河原の父 / 茶風林
勅使河原の母 / かとう有花
ユキちゃん先生 / 花澤香菜
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