京極夏彦氏の同名作品の映画化です。
私は怪談やホラーというのは苦手です。
ですから基本的にホラー映画は見ません。
ですが、この映画は原作を知っており、ホラーというわけではないことも知っていたので見ました。
感想/コメント
やはり、原作を越えられないのは、映画の宿命なのでしょうか。
ですが、この作品の場合、監督のせいではありません。
原作の出来が良すぎるのです。
蜷川幸雄監督は頑張っています。
それでも、気になるところはいくつかあります。
「・・・ぴちゃーん・・・(静寂)」
といった、効果音が似合う原作に比べると、明るすぎるのです。
昼間のシーンが多いのは少々もったいないです。
鬱陶しい雨のシーンですら昼です。
もっと闇が欲しかった映画です。
また、原作では、かなり閉鎖的な、それこそ部屋しか登場しないのではないかという印象を受けるのですが、外の風景が多く出ているのも予想外でした。
原作の雰囲気はまさに「闇」です。
「闇」という漢字は「門」の中に「音」と書きます。
家の門戸を閉じて暗い家に中で音だけが聞こえる様子を表している漢字です。
暗い家の中での「音」こそが必要だったのかもしれません。
原作がいいだけに、また映画化をしてもいいのではないかと思います。
監督が同じで、別キャストでもいいのではないでしょうか。
ただし、同じ監督にしても、別監督にしても、最低でも本作を越えるレベルでないと意味がありません。
原作の紹介は「時代小説県歴史小説村」の京極夏彦「嗤う伊右衛門」で。
あらすじ/ストーリー/ネタバレ
この「嗤う伊右衛門」は、お岩さんで知られる「四谷怪談」をベースにしています。
四谷怪談は、元禄時代に起きたといわれる事件をベースにした怪談で、四谷が舞台となっています。
鶴屋南北の歌舞伎や三遊亭圓朝の落語が有名な作品です。
「四谷怪談」では田宮家ですが、本作では民谷家になっています。
伊右衛門に惨殺された岩が幽霊となって復讐を果たすというのがベースのストーリーで、「うらめしや」の台詞が耳に残ります。
「嗤う伊右衛門」でも「うらめしや」の台詞が登場するが、その意味合いは全然異なります。
この民谷家の岩は生来気性が激しい性格として描かれます。
理に適わぬこと、道に外れることを心底嫌う質であり、意に染まらぬ状況には烈火の如く怒る質の女性です。
化粧や櫛入れなどをしません。己を飾ることに興味がないのです。
ですから、疱瘡を患って二目と見られない姿になっても、それまで以上に毅然とした態度で臨みます。
原作で凛として強い女性として描かれている岩は、映画でもそのように描かれています。
ちょっと迫力不足なのは、もったいないです。
というより、喚き散らすだけの台詞まわしもどうかと…。
別の女優で撮り直してみるのもいいでしょうが、女優の人選がかなり難しいでしょう。
又市という狂言まわしの存在は大きいです。
本来は黒子のように目立たず、ですが、確実にそこに存在していることが分かる演技が要求されるのでしょう。
ちょいと、目立ちすぎでした。
それでも、数々の登場人物の中で、唯一冷静で真っ当な判断ができる人物として描かれています。
その又市が言う。
二目と見られない姿になっても、飾ることもせず、毅然として生きる岩を世間は怖いと思う。
自分が岩と同じ目にあったら、とても岩と同じように毅然としてはしていられない。
だから嗤うしかないのだ。
原作ではこの後に、こうした意味の言葉が続きます。
つまり、岩の生き方は正しい。ですが、間違っている。
世間は正しいことばかりを受け入れてはくれません。
間違っていても世間に迎合することをしなければ窮屈になってしまいます。
実は、伊右衛門についても同じことがいえるのです。
この夫婦は似たもの同士なのです。
ラストシーンはどうするのかと思っていました。
このシーンは耽美的な映像美に浸ってみても良かった場面です。
そうしなかったのは、それまでのシーンが映像美にこだわったわけではないところにあるのかもしれません。
思ったのは、こうした幽玄な世界を描くのには、耽美的な映像がとてもマッチするだろうということです。
そして、そうした映像には特殊な加工を施した方がイイということです。
さらには、音楽です。
本作ではジャズっぽい感じの音が入り込んで、ちょっと、違うんだよなぁと、思ってしまいました。
耽美的な音楽がいいと思うのですが、確かに国内アーティストでは見つけられないでしょう。
海外の音源にはゴロゴロ転がっているので、そうした中から探し出せばもっと良いものになったはずです。
映画情報(題名・監督・俳優など)
嗤う伊右衛門
(2004年)
監督: 蜷川幸雄
原作: 京極夏彦「嗤う伊右衛門」
脚本: 筒井ともみ
音楽: 宇崎竜童
出演:
民谷伊右衛門/ 唐沢寿明
民谷岩/ 小雪
又市(御行乞食) / 香川照之
直助/ 池内博之
伊藤喜兵衛(筆頭与力) / 椎名桔平
宅悦 / 六平直政
民谷又左衛門 / 井川比佐志
梅 / 松尾玲央
針売りのお槇 / 藤村志保
お袖 / 清水沙映
西田尾扇 / 大門伍朗
映画賞など
・第49回アジア太平洋映画祭
助演男優賞(香川照之)
美術賞(中澤克巳)
・第17回日刊スポーツ映画大賞
主演女優賞(小雪)
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