高田郁「八朔の雪 みをつくし料理帖第1巻」の感想とあらすじは?

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料理を題材にした典型的な人情ものです。

登場人物の設定や話の展開などベタなのですが、それでも面白いです。

面白いのですが、文章力がもう少しあればもっと面白かったと思います。

高田郁さんは、これからの作家なので、期待できます。

例えば、似た題材で宇江佐真理氏の「八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし 卵のふわふわ」があります。

こちらは宇江佐真理氏の文章力で読ませる小説であり、登場人物の設定や話の展開などは本作に比べると劣ります。

逆に、本作に宇江佐真理氏の文章力があれば、まさに傑作になっていただろうと思います。

本作がベタであるにも関わらず、面白いのは、類型的な設定を使いこなしているからです。

か弱い少女(もしくは少年)が主人公で、その主人公には不幸や不運が次から次へと襲いかかってくるのですが、主人公の我慢やひたむきな努力によって、「ほんの少し」の幸せを手に入れる、という読者を泣かせる類型をキチンと踏んでいるからです。

「ほんの少し」という点がミソなのです。

大きな幸せになると、シンデレラ・ストーリーになってしまいますので、読者の同情を誘わなくなってしまいます。

この加減が難しいのですが、本作は素晴らしく上手に処理しています。

さて、主人公は十八歳の澪。澪は大坂「天満一兆庵」で料理の基本を叩きこまれています。

不運が重なって女将の芳と一緒に江戸で暮らしています。

苦労することには慣れているけれど、人から優しくされると弱いのです。

「丸顔に、鈴を張ったような双眸。ちょいと上を向いた小さな丸い鼻。下がり気味の両の眉。どちらかと言えば緊迫感のない顔で、ともに暮らす芳からも「叱り甲斐のない子」と言われている。」

舞台となるのは「つる家」という蕎麦屋。神田明神下にあります。神田明神下というと御徒町のすぐそばです。

つる家の主は種市。種市は澪に肩入れをしています。それは、種市が澪に娘・つるの面影を見つけたからでした。

他の重要な登場人物は二人。医者の永田源斉と種市が小松原と呼んでいる常連客です。

小松原は澪より、ちょうどひと廻り上。

その小松原が澪にこういう。「干支は卯だろ?気をつけな、卯年生まれは銭で苦労する」。これって本当でしょうか?

浪人のようでもあるが、味覚は澪が信頼を置くほどの人物です。ですが、謎が多い人物でもあります。

土圭の間の小野寺とは一体何のことをいっているのでしょうか?

続編があるので、少しずつ解明されていくのでしょう。

最後に。八朔とは八月一日を指します。吉原の遊女たちが白無垢を着ている情景を八朔の雪というのだそうです。

映像化

  • 2017年にNHKの土曜時代ドラマで「みをつくし料理帖」としてドラマ化されました。
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内容/あらすじ/ネタバレ

神田明神下御台所町の蕎麦屋「つる家」。澪の作った白味噌の土手鍋を客が毒づいて出て行った。せっかくの深川牡蠣を酷いことしやがって、と言い残して。店主の種市は気にするなという風なそぶりを見せる。

長床几に種市が小松原さまと呼ぶ常連客がいる。小松原は澪の作った土手鍋をつついて、面白いと、一言だけいった。面白いとは、どういうことか。

澪の以前の奉公先は大坂でも名の知れた「天満一兆庵」だ。今は神田金沢町に芳と二人で住んでいる。

天満一兆庵が火事に遭わなければ、江戸店の主を任された若旦那の佐兵衛を頼って江戸に来ることもなかった。佐兵衛が行方不明になっていなければ、江戸店が潰れることも、嘉兵衛が落命することもなかった。

いくつもの不運が重なっていた。一つでも免れていれば、ご寮さんの芳と、奉公人にすぎない自分が一つ屋根の下で過ごすこともなかった。

小さな稲荷がある。化け物稲荷の名で知られた、荒れ放題だった稲荷神社だ。澪がお参りをしていると、後ろから若い医者がやってきた。

半年前に大阪から出てきたばかりの澪にとって、鰹で引く出汁にも、濃い醤油の味にも、なかなか慣れなかった。

化け物稲荷に芳と一緒にお参りに行ったとき、芳が倒れた。そこに通りかかったのが、昨日の青年医師だった。永田源斉と名乗った。

芳を助けてもらった礼に澪は牡蠣のしぐれ煮を馳走した。源斉は、上方は色白で味が控えめなのかと言った。その言葉に澪はハッとした。

江戸は職人が多い。年中汗をかくから、塩けの強い味の濃いのを好むのではないかと源斉はいう。

澪は今の自分にできるのは、つる家の売りになるような肴を考えることだと思っている。

店で大量に出る鰹節の出汁がらを使って何か良い肴が作れないか。澪がたどりついたのは鰹田麩だった。

澪と芳は同じ長屋の、おりょう、伊佐三、太一家族と仲良くなった。太一は二人の子ではない。火事で身寄りが無くなったのを引き取ったのだという。

鰹田麩の試行錯誤が続いた。その味見を小松原に頼んだ。一口食べた小松原は、小網町の佃煮商、伊勢屋の鰹田麩の二番煎じだという。

享和二年(一八〇二)七月一日。淀川が決壊した。多くの死者が出た。漆師だった父伊助、母わかもその中に含まれている。十年経っても、その時の記憶は澪の記憶の奥深くに刻まれている。

澪は種市、永田源斉と一緒に吉原見物に来ていた。八月朔日、通称「八朔」。吉原の遊女が白無垢姿で客を迎える日である。この日は、女たちにも吉原見物が許される。

目の前に現れたのは、白装束に狐面を被った七人の女たちだった。最後の一人は、噂に高い翁屋のあさひ大夫と思われたが、面を取らずじまいだった。あさひ大夫の素顔を見たものはいないと言われる…。

帰り道、三人で心太を食べた。澪は心太に酢醤油をかけるのに驚いた。大坂では砂糖をかける。そして、江戸では心太を寒天から作ると知り絶句した。大坂では天草から作る。

澪の育った近くにも遊郭があった。新町廓という。

享和二年(一八〇二)、水無月。澪は幼馴染の野江と一緒にいた。その時、澪が下駄を「花の井」とも「足洗いの井戸」とも呼ばれる新町廓の井戸に入れてしまった。

二人は見つかって怒られると思った。連れていかれた先で、野江が水原東西という易者に「旭日昇天」の相だと言われた。

一方、澪は「雲外蒼天」の相だという。艱難辛苦が降り注ぐ運命だが、苦労に耐えて精進を重ねれば、必ずや真っ青な空を望むことができる。他の誰もが拝めないほど澄んだ綺麗な空を。それを忘れるなと水原東西は澪に言った。
その夜、淀川が決壊した。

両親とはぐれて一人でいた澪を助けてくれたのが「天満一兆庵」の女将・芳だった。天満一兆庵では父・伊助が塗った箸を使っていた。澪は父の形見に囲まれて働くことになったのだった。

澪は天草を使って、心太を作り始めた。それを食べた種市は、これは旨いと驚いた。それを期限を区切って客に出すことにした。これが評判になった。

芳の体調を回復させるために、しっかりと食べてもらうことだと永田源斉はいった。食べ物には薬という側面があることを澪に教えた。

種市が体を痛めて、今までのようには蕎麦打ちができなくなってしまった。意気消沈する種市が切り出したのは、澪に雇われ店主をやってもらいたいというものだった。今までの恩に報いるためにも澪は引き受けた。

だが、客足は遠のいた。皆、種市が打つ蕎麦が食べたくてやってくるのだ。澪が工夫した料理には誰も興味を示さなかった。

澪が偶然手にしたのは戻り鰹だった。江戸では好まれない食材だ。これを使って作った鰹飯を「はてなの飯」と名付けて売り出したら、これが売れた。だが、直にまねをしだす店が出てきた。

小松原は澪に、この味に得心しているのかと聞いてきた。澪の隠しておきたかった核心を突かれた。追い打ちをかけるように、料理の基本ができておらず、根本を間違えていることに気が付いていないと言った。

それを聞いた芳は、料理の基本は何かと澪に聞いた。それに澪はあっと気がついた。出汁だ。

澪は江戸の出汁を知るために、日本橋「登龍楼」に出かけた。料理屋の番付で最上位の東方大関の店だ。

その帰り、澪は鰹節商で出汁の基本的な引き方を教わった。そこで分かったのは、今までの鰹だしの引き方が何から何まで逆に行っていたことだった。

そして、次に澪がとりかかったのは、上方の昆布と江戸の鰹節を合わせた出汁を作ることだった。

その出汁からできたのが「とろとろ茶碗蒸し」だった。

「とろとろ茶碗蒸し」の評判を聞きつけて、「翁屋」の料理番・又次が分けてくれないかと訪ねてきた。

師走。澪の「とろとろ茶碗蒸し」が料理番付の関脇に載った。

つる家から遠くない場所で登龍楼が庶民向けの店を出した。つる家の客は減っていった。明らかにとられてしまっていた。

小松原は、いきなり初星を取ったのだから、妬み嫉みは買って当然だという。登龍楼の茶碗蒸しも食べたという。だが、長く愛されるのは飽きのこないもので、それはつる家の方が勝ると言ってくれた。その言葉通り、少しずつ客が戻ってきた。

その矢先、芳が怪我をした。登龍楼に文句に行って乱暴に叩きだされたのだった。芳にとって、澪は娘も同然だ。その娘が命がけで考えた味を盗まれたのだ。許しておけなかったのだった。

柄の悪い男達が店先に現れるようになった。そして、ついに店が燃やされてしまった。種市はあまりのことに気が動転してしまっている。

火をつけたのは登龍楼の主・采女宗馬の指示によるのか…。

裏店を叩く者がいる。「翁屋」の又次だ。弁当を頼まれてくれないかという。

その箱には十両の小判と、文が入っていた。文にはたった四文字だけが書かれていた。
澪は大夫から借りた十両で屋台を始めることにした。場所はつる家のあった場所だ。そこで出すのは酒粕汁だ。

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本書について

八朔の雪
高田郁
ハルキ文庫 約二七一頁

目次

狐のご祝儀―ぴりから鰹田麩
八朔の雪―ひんやり心太
初星―とろとろ茶碗蒸し
夜半の梅―ほっこり酒粕汁

登場人物


芳…天満一兆案の女将
(嘉兵衛…天満一兆庵の主人)
佐兵衛
種市…つる家の主
小松原…浪人
永田源斉
おりょう
伊佐三
太一
あさひ大夫…翁屋の遊女
伝右衛門…翁屋の主
又次…翁屋の料理番
野江…澪の幼馴染
水原東西
采女宗馬…登龍楼の主

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