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楠木誠一郎の「甲子夜話秘録 第1巻 鼠狩り」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

松浦静山(まつらせいざん)。題名にもなっている「甲子夜話(かっしやわ)」を書いた人物である。甲子夜話が書かれ始めたのは静山が六十二歳の十一月十七日甲子(きのえね)の夜で、死ぬまで書かれた。甲子夜話は江戸時代の社会風俗を知るための貴重な資料であり、内容も多岐にわたっている。

この物語は静山が隠居したばかりの四十七歳が舞台になっているので、まだ甲子夜話は書かれていない。

同じような書きとめたものとして根岸肥前守鎮衛の「耳袋」があるが、偶然にも根岸肥前守鎮衛と松浦静山は同じ時代を生きた人物であった。

松浦静山を主人公にした作品というのは意外と少ないように思う。だが、博覧強記でもあり、剣の達人でもあったので、いろいろな風に脚色できる素材である。作品が少ないのは惜しい題材だと思う。

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内容/あらすじ/ネタバレ

文化三年(一八〇六)十一月下旬。北本所の肥前平戸藩下屋敷。

平戸藩主松浦清が幕府に隠居願いを出したのは、今月十一月十三日のことだ。跡目を継いだのは三男の煕だ。

隠居後は静山を名乗ることにした。親友で儒学者の林述斎が選んでくれた名だ。

静山は四十七歳。隠居には早いが、癪、痔疾などを理由に挙げたが、本当の理由は別にある。静山をよく知るものは、幕閣に呼ばれないことで腐っているに違いないと思っているだろう。

大目付中川忠英が隠居前の静山を呼びだした。そして、お世継ぎは息災か?と聞いてきた。静山はすぐに己の出処進退に関わると悟った。

実はと中川は話を進める。抜け荷について調べてもらいたいという。その抜け荷には幕閣の誰かが深くかかわっている可能性がある。そして、その荷が平戸から流れているらしい…。

八百吉こと荻野長が静山を訪ねてきた。八百吉は天守番を務めている御家人である。

八百吉は静山を見てにやりと笑った。新しい出物はないかというのだ。八百吉のいう出物とは枕絵や好色本などのことだ。

枕絵を脇に、八百吉は十一月に入ってから大名屋敷だけを狙った盗賊が出没していると語った。盗賊は乱暴狼藉を働き、鼠小僧参上の張り紙を残していくという。

この話をしている内に、札差の松屋貞吉と、浅草の芝居小屋で帳簿を預かる仕切り場を任されている名和屋千次郎が現れた。

この三人は静山にとって世間を教えてくれる「耳」である。

天井から何やら落ちてきた。

十歳くらいの子供だ。次郎吉という。父の借金を減らすために盗みに入ってきたらしい。初めてで、盗みを働いたわけではない。

静山は次郎吉の父の借金を肩代わりする代わりに次郎吉を自分の下で働かせることにした。

静山が上屋敷に行くことにした。長く仕える女中のお亀が悩んでいることがあり、相談したいというのだ。

それとは別件で、静山は上屋敷に用事がある。それは鼠小僧を捕まえるための罠を仕掛けるためだ。千両箱を目立つ形で上屋敷に運び、それを松屋貞吉や名和屋千次郎に噂を流させたのだ。

お亀の相談はこうだ。飼い猫の「姫」が夜中に踊るのだという。

静山はその様子を見に行った。

お亀には参治という亭主がいたが三下り半を突き付けて別れた。以来、家族といえば姫しかいない。

なるほど、夜中に姫が踊り始めた。だが、よくよく気をつけてみると、姫が酒臭い。どうやら酒を飲まされたようだ。恐らく、飲ませたのは沸かれた亭主の参治だろう。だが、一体なぜ?

上屋敷に賊が入った。

逃げた賊を妖艶な女が三味線の撥で仕留めた。女はお絹と名乗った。

林述斎が酒瓶を片手に訪ねてきた。養老酒と書いてある。すぐそこの美濃屋で買い求めたという。

だが、この酒には毒が入っていた。お志乃の機転で危ういところを助かった。だが、一体だれが、何のために?

次郎吉が美濃屋を見張り、音松という男のことを知らせてきた。

この音松を静山と次郎吉がつけた。だが、さらに静山と次郎吉をつけているものがいた。それに気づかせてくれたのは、先日のお絹だった。
音松を見失った。

その音松が美濃屋に戻ってくると、泡を吹いて死んだ。毒を飲まされたのだ…。

両国広小路で偶人戯をやっている。次郎吉が見たいというのでお志乃らも交えて連れ立っていくことにした。

小屋には八百吉、松屋貞吉、名和屋千次郎もいた。

静山はこの三人と酒を飲みに行った。だが、目の前で静山の酒を横取りした浪人がいた。その浪人が泡を吹いて死んだ。毒が入っていたのだ。明らかに静山を狙った犯行だ。

一体だれが、何のために?

本書について

楠木誠一郎
甲子夜話秘録1 鼠狩り
だいわ文庫 約二六五頁

目次

鼠の予知
踊る猫
養老酒
のろま人形

登場人物

松浦静山
お志乃
次郎吉
お絹
荻野長(八百吉)…御家人
松屋貞吉…札差
名和屋千次郎…芝居小屋の帳簿管理
赤松左馬之助…老臣
林述斎…儒学者
中川飛騨守忠英…大目付
松平信明…静山の義兄
お亀…上屋敷の女中
参治
音松