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北重人の「夏の椿」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

「蒼火」の続きとなる立原周之介もの。舞台は田沼時代末期。

あることを探ろうとしていた甥の定次郎が殺されて見つかった。一体、定次郎はなにを探ろうとしていたのか。甥殺しを追いかけていくうちに、浮かび上がってきたのが柏木屋という裏の顔を持つ謎の米問屋。そして定次郎が惚れこんでいたという遊女・沙羅。その沙羅もこの事件に深くかかわりのあった…。

主人公の立原周之介の生業は三つある。

『その一つが、刀剣の仲介である。刀の目利き口利き、それに売買、これが一番の実入りだ。

次いで、神田松枝町の一刀流道場の師範代。これは旬日に五日ほど出張る。十一歳から通った道場である。勘当後、江戸の暗闇に沈まずに済んだのは、破門もせずに道場に繋いでおいてくれた師のおかげかも知れなかった。実入りは僅かだ。が、これはまあ、師への恩返しのようなものである。

三つ目は、万調べ事、談じ事。周之介は町方と武家方の双方に通じている。それで、両者のもめ事の仲裁などをする。』

さて、「夏椿」の別名は「娑羅樹」。娑羅双樹に似ているところからつけられたそうだ。娑羅双樹は沙羅双樹とも書く。夏椿も同様に沙羅樹となる。ここまで書くと、題名「夏の椿」が意味するところは一目瞭然。

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内容/あらすじ/ネタバレ

八月初旬。立原周之介の家を父・左右衛門が訪ねてきた。十四年ぶりのことだ。周之介は元鳥越、鳥越明神そばの彦十店に住んでいる。

天明六年七月半ば、関東は大雨に見舞われ、寛保二年以来、四十数年ぶりの大水害となった。

左右衛門が訪ねてきたのは、定次郎のことだった。

定次郎は、萩山家に嫁いだ姉・佐江の三男である。

一昨日、萩山家を見知らぬ男が訪ねた。神田銀町大木屋の使いと名乗り、定次郎の消息を尋ねた。定次郎が部屋に戻ってきていない。大木屋は定次郎の店請人であった。

周之介の身の回りの世話を彦十店のお初婆さんがしてくれる。

昼過ぎ、周之介は定次郎の住んでいた裏店を訪ねた。次いで大木屋を訪ねた。大木屋は炊き出し玄治の店だ。だが、忙しくて日を改めることにした。結局、周之介は北町奉行所定廻り同心・葛岡伊三郎を訪ねた。

炊き出し玄治は定次郎が一ツ橋家の探索方を手伝っていたようだという。それと、地面のことも調べていたようだった。

葛岡伊三郎からの呼び出しがあった。岡っ引きの五十鈴屋久蔵も呼ばれていた。

伊三郎は、深川で一艘の猪牙舟が見つかったといった。中に若い侍の遺骸があり、腹を刺され、肩先を割られていた。持ち物の中に肥前国忠吉があり、定次郎であるのは間違いなかった。

定次郎は首から柏木屋と記された両替商振り出しの預かり手形を持っていた。二百両の額面だ。柏木屋とは地廻りの米問屋だ。

それと、懐には草履が入っていた。

八月二十七日、老中田沼意次が辞めさせられた。

久蔵が定次郎の殺された場所を見つけたと言ってきた。

以外のあった猪牙舟に焼き印があった。「牛□、□屋」とある。これを久蔵の手下・安吉が解いた。場所は牛込だ。

玄治に柏木屋の名を出すと、以前に定次郎が柏木屋のことを尋ねていたという。

柏木屋には泉屋という舂米屋をやらせており、これが地面を扱っているという噂だった。

蹲の左蔵を訪ねた。死の直前、定次郎が訪ねていた先だ。ここで人と会っていたようだ。

左蔵は、定次郎に惚れた女がいて、それが身請けされそうになったので、その前に何とか金の算段をしようとしていたらしい。これで手形の説明ができる。

惚れた相手は、芝神明門前の扇屋、名は沙羅という。

沙羅は定次郎が身請け金を持ってこられなかったため、すでに身請けされていた。相手は武州川越の薬種問屋小田原屋の主だ。

周之介は沙羅に会いに行き、定次郎が死んだことを告げた。

何か手掛かりをと思い、川越まで来たが、無駄足のようだった。

長屋に卯之吉という二十代半ばの男が越してきた。目の端に曲のある男だ。

留守中に訪ね人があった。赤黒い坊主だったという。間違いない。定次郎を訪ねてきたという坊主だ。

もうひとつ。葛岡は柏木屋に絡んで吟味与力橘宣蔵に声をかけられたという。力もあり、一方で悪い評判もある。

周之介は赤牛と名乗る人物からの呼び出しを受けた。例の坊主だ。

赤牛は柏木屋について語った。柏木屋には暗闇があるという。例えば、と、小石川惣兵衛の一件を話した。

小石川の一件を調べるなら、駒込追分の藤代屋の芳七を会ってみてはどうかといった。周之介はその通りにした。

赤牛は定次郎の死をどこで知り、定次郎が小石川惣兵衛の一件を調べていたことをなぜ知り、何のために周之介に近づいているのか…。

赤牛は先代の柏木屋に仕えていた市兵衛が原宿村に住んでいるといった。それと、定次郎が柏木屋にのめりこんだのは、越後探索から帰ってきてからだという。柏木屋仁三郎も越後の出だ。

その市兵衛は仁三郎には守護神(まもりがみ)が寄り添っているような…といった。競う相手がいると、相手に思わぬ不幸が起きていく…。

赤牛には佐伯丙内という用心棒がついている。

周之介は越後に行ってみることにした。

久蔵の紹介で富沢屋東三を訪ねた。そして、柏木屋仁三郎の過去が少しわかった。仁三郎には千次郎、小四郎という二人の弟がいた…。

江戸に戻ってきた周之助を待っていたのは、彦十店を取り壊すという話と、川越から出てきた沙羅だった。沙羅の父は小石川惣兵衛だった。

沙羅が語るには、定次郎が柏木屋に執着したのは、二通の借金証文だった。それは沙羅の手元にある。

赤牛は沙羅が小石川惣兵衛の娘であることや、証文のことも知らなかった。

守護神は向こうから周之介のところにやってきた。

どこで俺のことを知ったのだ、しかも住まいまで…。

本書について

北重人
夏の椿
文春文庫 約三八五頁

目次

序章
第一章 雨
第二章 越後
第三章 守護神
第四章 沙羅の花

登場人物

立原周之介
立原左右衛門…父
妙…祖母
鈴江…兄嫁
甚助
萩山定次郎…甥
お初婆さん
お清婆さん
炊き出し玄治
葛岡伊三郎…北町奉行所定廻り同心
五十鈴屋久蔵…岡っ引き
安吉
橋本亥十郎…吟味与力
橘宣蔵…吟味与力
蹲の左蔵
沙羅
赤牛
佐伯丙内
卯之吉
小石川惣兵衛
芳七
宇藤七三郎…会津藩深川屋敷
市兵衛
柏木屋仁三郎
千次郎
小四郎
富沢屋東三
黒船の勢五郎