[紹介]世界の経営学者はいま何を考えているのか:入山章栄(英治出版)[要約]

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目次

副題

知られざるビジネスの知のフロンティア

2012年11月25日第1版1刷

帯にはこう書かれている

ドラッカーなんて誰も読まない!?
ポーターはもう通用しない!?
米国ビジネススクールで活躍する日本人の若手経営学者が
世界レベルのビジネス研究の最前線をわかりやすく紹介。
本場の経営学は、こんなにエキサイティングだったのか!

経営学に対する見方が変わった

経営学に対するイメージが変わった一冊。
今の経営学が(申し訳ないが)「意外に科学的」なアプローチをとっているのに正直驚いた。

あらゆるジャンルで「エビデンス」というキーワードが流行っているが、経営学にもその波が押し寄せており、統計学的にもしっかりとした客観的なエビデンスが集積しつつあるようである。

それを『EBM』(Evidence-Based Management)という。この単語は覚えた方が良いかもしれない。イー・ビー・エムと読む。(ちなみにEBMといえば、医療のEvidence-based medicineを指すのが一般的である。)

その結果として、従来型の経営学から脱却して、新しいフロンティアが生まれてきているのが紹介されている。

これから経営学を学ぶ人にとっては、どのような世界が広がっているのかを知るのにとても良い本だと思う。

現時点での経営学の地図帳の様な本であり、これをとっかかりに深く学んでいくのがいいように思う。

そして、従来型の経営学の中で学んだ人(例えば少し前のMBAホルダー)にとっては、経営学の進化を感じ取れる内容になるのではないだろうかと思う。

まっ、少なくとも知的好奇心は満たしてくれる一冊ではある。
(新しい世界を見せてくれる本は、たいていの場合は面白いものである)

目次

PART1 これが世界の経営学
第1章 経営学についての三つの勘違い
第2章 経営学は居酒屋トークと何が違うのか
第3章 なぜ経営学には教科書がないのか
PART2 世界の経営学の知のフロンティア
第4章 ポーターの戦略だけでは、もう通用しない
第5章 組織の記憶力を高めるにはどうすればよいのか
第6章 「見せかけの経営効果」にだまされないためには
第7章 イノベーションに求められる「両利きの経営」とは
第8章 経営学の三つの「ソーシャル」とは何か(1)
第9章 経営学の三つの「ソーシャル」とは何か(2)
第10章 日本人は本当に集団主義なのか、それはビジネスにはプラスなのか
第11章 アントレプレナーシップ活動が国際化しつつあるのはなぜか
第12章 不確実性の時代に事業計画はどう立てるべきか
第13章 なぜ経営者は買収額を払い過ぎてしまうのか
第14章 事業会社のベンチャー投資に求められることは何か
第15章 リソース・ベースト・ビューは経営理論といえるのか
PART3 経営学に未来はあるか
第16章 経営学は本当に役に立つのか
第17章 それでも経営学は進化しつづける

PART1 これが世界の経営学

第1章 経営学についての三つの勘違い

あえてアメリカに限定した場合…

1.アメリカの経営学者はドラッカーを読まない。

アメリカの経営学の最前線にいるほぼすべての経営学者はドラッカーの本をほとんど読んでいない。
理由は単純で、「学問としての経営学の本」とは認識していないから。

そのため、研究においてもドラッカーの影響は受けていない。
著者の推論だが、ドラッカーの言葉は「名言ではあっても、科学ではない」から。

世界の経営学は科学を目指している。
「社会科学になることを目指して研究者が奮闘している発展途上の分野」

この言葉はかなりのインパクトがあって、本書に俄然興味を持った。
科学ということは、一般化されるということである。このことの意味は極めて大きい。

2.ハーバード・ビジネス・レビューは学術誌ではない。

ハーバード・ビジネス・レビューはけっして経営学の学術誌ではない。
掲載される論文には、経営分析の新しいツールや、最新の企業戦略の動向などは語らえるが、科学的な分析の仔細が報告されているわけではない。

そして、アメリカのビジネススクールの経営学者にとって、ハーバード・ビジネス・スクールに論文を載せることは重要な業績にはならないことが多い。

まぁ、普通に考えれば、スコアの高い学術誌が一般書店で売られるはずがない。書店で売られる時点で、一般の雑誌ということであり、一般の雑誌よりは多少ましというレベルということであろう。啓蒙雑誌と考えればよいということだろう。

3.よい授業をしても出世などできない

アメリカではそうということである。

第2章 経営学は居酒屋トークと何が違うのか

居酒屋で繰り広げられる経営の一般的な法則のように聞こえる話

 ▼

理論と実証

世界の経営学ではほかの科学分野と同じように理論分析と実証分析を行っている。
仮説を立て、それが多くの企業に当てはまるかどうかを検証していく。一般的な経営法則を探究することが科学的な態度である。

 ▼

そのために多くのデータを集め、仮説を統計的に検証することが重要である。
「経営の一般法則を探求しても意味がない」という安直に思考を停止することは、きわめて非科学的である。

ある理論が、企業の現実を説明できないのであれば、なぜ説明できないのか、をさらに理論的に考えて検証することが重要であると世界の経営学では考えられている。

経営戦略論の代表的な学術誌「ストラテジック・マネジメント・ジャーナル」

2011年に掲載された57本の実証研究のうち、52本が統計分析を用いており、ケース・スタディは5本でしかなかった。

欧州発の「ジャーナル・オブ・マネジメント・スタディーズ」では2011年に発表された実証研究51本のうち、41本は統計分析を用いている。

 ▼

欧米を中心としたトップスクールの経営学者の多くは、科学性を重視し、「理論→統計分析」の演繹的なアプローチが支配的である。

一般的な法則を検証することを世界の経営学が目的としている限り、この潮流は当面変わらないだろう。

第3章 なぜ経営学には教科書がないのか

ビジネススクールで学んでいるMBA生や学部生向けの経営学の教科書は数多く存在する。

これらは研究に重きを置いたものではなく、研究の成果から導かれた実践的な経営分析のツールを紹介しているものがほとんど。
 ↓↑
研究者を養成する博士課程の学生を対象とした経営学の理論を体系的に網羅した教科書はない。

 ▼

博士課程の学生は、数多くの論文を読むことになる。

代表的な古典論文から最新論文までを幅広く大量に読み、経営学の体系的な知識を習得していく。

ペンシルヴァニア大学ウォートン・スクールの学科の構成
 会計学
 ビジネス経済学と公共政策
 ファイナンス
 ヘルスケア経営
 法学とビジネス倫理
 経営学
 マーケティング
 オペレーションと情報経営
 不動産学
 統計学
(この中で驚いたのは、不動産学である。)
経営学の分野
 マクロ分野
   経営戦略論
   (マクロ)組織論
 ミクロ分野

 ▼

経営学の3大流派

1.経済学ディシプリン

 経済学に基礎を置くディシプリン
  ハーバード大学のマイケル・ポーターなど
  リソース・ベースト・ビューという考え方や、リアル・オプションなど

2.認知心理学ディシプリン

 認知心理学に基礎をおくグループ
  ハーバード・サイモン教授、スタンフォード大学のジェームス・マーチ教授、ペンシルヴァニア大学のダニエル・レビンサール教授、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏など
  トランザクティブ・メモリーという考え方

3.社会学ディシプリン

  ネットワーク理論、ソーシャル・キャピタルなど

PART2 世界の経営学の知のフロンティア

第4章 ポーターの戦略だけでは、もう通用しない

競争戦略といえばハーバード大学のマイケル・ポーターの「競争の戦略」が有名であり、第一人者であることは疑いの余地がない。

その理論は基本中の基本で、「ファイブ・フォース」「バリュー・チェーン」といった分析ツールはポーターが生み出したり発展させたりしたものである。

 ▼

しかし
現在の競争戦略はポーターの考えだけでは十分でない、ことがわかってきている。

そのために、
競争戦略論の基本コンセプトである「優位競争」とポーターの理論をおさらい。

企業の目的は競争戦略論では、「持続的な競争優位」を獲得することと考える。
ポイントは「持続的な」ところ。

 ▼

ポーターの理論は、SCP(Structure Conduct Performance)パラダイムにある。

一言でいえば「ポジショニング」に尽きる。

優れたポジショニングを取ることによって持続的な競争優位を獲得できる

 ▼

ポジショニングには二種類ある

1.事業を行う上で適切な産業を選ぶ
  企業の間での競合度が低く、新規参入が難しく、価格競争が起きにくい産業が望ましい

2.今いる産業の中でできるだけユニークなポジションを取る
  差別化戦略が重視される

 ▼

早い話が
どうやって競合他社との競争を避けるか、ということになる

つまり
ポーターの競争戦略とは「競争しない戦略」のことである

さて、おさらいは終わり

本題
テューレーン大学のロバート・ウィギンズとテキサス大学オースティン校のティモシー・ルエフリ
2人が2000年初頭から学術誌に3本の論文をだし、それがそれまでの競争戦略論に風穴をあける衝撃的なものだった。

 ▼

発見1.持続的な競争優位を実現する企業は存在するが、すべてのうちの2~5%にすぎない

発見2.近年になればなるほど、競争優位を実現できる期間は短くなっている、つまり、どんどん難しくなってきている

発見3.いったん競争優位を失ってから再び競争優位を獲得する企業が増加している、つまり、一時的な優位をくさりのようにつないで、結果として長期的に高い業績を得ているように見えるのが優れた企業である

 ▼

ダートマス大学のリチャード・ダヴェニがこの状況を「ハイパー・コンペティション」と名付けた。

 ▼

企業が積極的に競争行動をすることは業績の向上につながるのか?

一見して、SCPパラダイムの「競争しない戦略」と逆の考え方のように聞こえる。

この部分はこれからの研究課題である。

第5章 組織の記憶力を高めるにはどうすればよいのか

組織学習の決め手となるトランザクティブ・メモリー

「組織学習」は世界の経営学でも大きな研究分野の一つとして発展してきた

数多くの実証研究が行われ、科学的にメカニズムが解明されつつある

 ▼

組織のラーニング・カーブ(学習効果曲線)を測定する

人の場合、同じ作業を何度も繰り返すkとによって、次第に作業の効率を上げていく

 もし

組織も経験を積むほどその作業効率が高まっていけば、学習効果があったということになる

 ▼

いろんな企業、組織のデータを使って、統計的に検証する試みが行われてきた

そして、多くの研究でラーニング・カーブを確認する結果が得られている

最近の研究の代表例
マサチューセッツ工科大学のレイ・リーガンス、カーネギーメロン大学のリンダ・アルゴーティ、ノースウェスタン大学病院のダリア・ブルックスが2003年に発表した論文

 ▼

外科手術が分析の対象

1.執刀チームが同じメンバーで繰り返し手術を経験するほど、手術の時間は短縮される

2.病院そのものにもラーニング・カーブが認められる

3.個人の経験は短期的にはチーム・パフォーマンスに悪影響を与えるが、中長期的にはプラスの影響を与える

 ▼

組織学習は複数のレベルで発生することを示している

個人レベル、チームレベル、病院という組織レベル

「組織の記憶力」

 ▼
トランザクティブ・メモリー
組織の各メンバーが他メンバーのだれが何を知っているかを知っておくことである
 Who knows what

 ▼

人は自然とそれぞれの得意分野に特化し、専門知識を覚えるようになる

組織として学習する強みは、各自がスペシャリストとしてそれぞれの分野で深い知識を記憶すること

 さらに重要なのは、

個人に根付いた専門知識を組織が効果的に引き出せることである

 ▼

同じ組織の、ほかのだれが何を知っているのかを知っていることが重要

人は一人ではトランザクティブ・メモリーは持てない

 ▼

実社会でどのような組織が優れたトランザクティブ・メモリーを持っているのかは、これからの研究課題である

PART2 世界の経営学の知のフロンティア

第6章 「見せかけの経営効果」にだまされないためには

「経営戦略の効果」はもしかしたら大したものではない可能性がある。
これは、現在の経営学の研究手法の問題と大きくかかわってくるテーマである。

世界の経営学では統計学に基づく手法が多く用いられている。
最も多く使用されている手法が「回帰分析」である。

 ▼

数多くの回帰分析が行われ、多くの実証研究が報告されてきた。

繰り返し検証されることで、法則が真理に近いのかどうかの合意が得られるようになっていく。

 たとえば

独自資本と買収のどちらが、海外子会社のその後のパフォーマンスにプラスの効果をもたらすか
⇒ほかの条件を一定とすれば、独自資本のほうがパフォーマンスを高めるようだ
という結果が得られてきた。

 ▼

だが、
1998年まで

 ▼

マイルズ・シェイバーが1998年に「マネジメント・サイエンス」に発表した論文
「経営戦略が業績に与える効果(すなわち経営効果)」を回帰分析した研究の多くが間違っている可能性がある、と指摘

 いまでは

シェイバーの指摘が正しかったことも合意事項になっている

前の例で行くと
「なぜこの企業はそもそも独自資本を選んだのか」という点に注目すべきであると主張する
「独自資本か買収か」は戦略的な意思決定である

意思決定に影響を及ぼす別の要因があるはず

それは、特別な技術力であったり、適当な買収候補が見つからなかったり などである

 ▼

1998年以前の研究では、この要因を加味しないで回帰分析を行っていた

これは計量経済学における「内生性の問題」と呼ばれている

計量経済学では、以前からこの問題を解消するための手段が検討されてきていたが、経営戦略論では内生性問題への対応が遅れていた。

 ▼

多角化戦略、国際化戦略、競争戦略、すべてのテーマで、戦略が業績に影響を及ぼすかを統計的に検証することが重要。

つまり経営戦略分析の多くが、本質的に内生性の問題をはらんでいる。

厄介なのは「企業の優れた技術力」のような情報な目に見えないし、計測できない。

見えない要因による影響を排除するため、特別な統計手法が用いられる。

 ▼

トューレーン大学のダグラス・ミラーの2006年の論文

経営学者の間では「豊富な知的資産を持ち、その資産を事業に活用できる企業は、多角化により市場価値を向上させることができる」という法則が徐々にコンセンサスになりつつあった

 ▼

ミラーの結果
・知的資産が多様な企業のほうが多角化を進める傾向にある
・知識が多様な企業のほうが企業価値は向上する

 だが

結果としては

企業が多角化から高い業績を得られるのは、その企業が多様な知的資産を有しているときに限るというモデレーティング効果を裏付けたが、そのような知的資産を有していないときは、むしろ多角化は業績に悪影響である

よほど統計学に正しい手法を使っていない限り、分析は内生性やモデレーティング効果を考慮してない。
見かけ上、経営効果があるように見えるだけなのかもしれない

 ▼

見せかけの経営効果を気にせずに、好調なライバル企業をまねする企業の例としてKマートがある。
対抗しようとした相手は、ウォルマート。

ウォルマートが低価格戦略を実現できた背景は複数の因果関係が複雑に絡み合っていたからなのだが、Kマートは一部だけをなぞって低価格化やIT投資をした。

結果として、Kマートは連邦破産法11条を申請している

第7章 イノベーションに求められる「両利きの経営」とは

イノベーションのキーワード

 それは

「両利きの経営」
(日本ではなぜか「イノベーションのジレンマ」ばかりが注目されている)

 ▼

世界のイノベーション研究のフロンティアで経営学者の多くが研究しているテーマ

イノベーション=「企業が革新的な技術、あるいは商品やビジネスモデルを生み出すこと」
イノベーションを生み出す一つの方法は、すでに存在している知と知を組み合わせることである。

 ▼
イノベーションを超しやすい組織の条件の一つ
=組織の知が多様性に富んでいること

 ただし、知は多様すぎてもよろしくない、組織にはキャパシティの限界があるためである

スタンフォード大学のリタ・カティーラとミシガン大学のゴータム・アフージャの研究

特許引用のデータを用いて企業の「知の範囲」を計測
 ↓
企業の知の幅が広くなるほどその企業は新しい特性の付加された製品を生み出しやすい、しかし、極端に広がるとマイナスの効果を持つことを確認した

つまり、ほどほどに幅の広い知識を持つのがよい

 ▼

それではどうすればよいのか。

 ▼

盛んに研究されているのがオープン・イノベーション戦略

メリーランド大学のレイチェル・サンプソンの研究

複数の企業が組み合わさること位よって広がる知識の幅を計算

 ▼

アライアンスによって知識の幅が広がることが企業のイノベーション成果に与える影響は、やはり「ほどほどの知の広がり」が最適であるという結果

企業が知の範囲を広げるために新しい知を探す行動を経営学ではエクスプロレーションと呼ぶ。
いわば「知の探索」である。

 一方で

今有している知識を改良したり、さらに有効活用することをエクスプロイテーションという。
いわば「知の深化」である。

 ▼

この二つを同時にバランスよく実現する必要がある

「知の探索」は大変な作業のため、業績が好調な時には特になおざりになりがちである。

当面の事業が成功すればするほど、知の探索を怠りがちになり、中長期的なイノベーションが停滞するというリスクがある

 これを
「コンピテンシー・トラップ」という

 ▼

「コンピテンシー・トラップ」=組織の問題

「イノベーションのジレンマ」=経営者や企業幹部の認知の問題

リタ・カティーラとゴータム・アフージャの論文には続きがある

論文では「知の深さ」も計算している

 ▼

知識の幅を広げると同時に特定の知識を深めることを実現した企業が最も優れたイノベーション効果を上げている、ことが統計分析から明らかにされた

PART2 世界の経営学の知のフロンティア

経営学の三つの「ソーシャル」とは何か(1)

一大潮流の研究テーマであり、マクロ組織論と呼ばれる分野のトップクラスの研究者たちは、「ソーシャルを科学的に分析」するための基本知識を備えている。

ソーシャルは社会学ディシプリンにもとづいている。

経営学でソーシャルを分析する枠組みはおおまかに3つ

1.ソーシャル・キャピタル
2.関係性のソーシャル・ネットワーク
3.構造的なソーシャル・ネットワーク

ソーシャル・キャピタル

ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)
=人と人がかかわりあうことで生まれる便益
=人と人が関係性を持つことそのものが資本になり得る

古典論文がある
ジェームズ・コールマンが1988年に「アメリカン・ジャーナル・オブ・ソシオロジー」に発表した研究

 ▼

ソーシャル・キャピタルの定義には2つの条件がある
1.人と人の関係性からもたらされること
2.関係性が人の行動に影響を与える
⇒二つの条件を満たしたソーシャル・キャピタルは人や組織にメリットをもたらすことがある

たとえば
ダイヤモンドの取引における信用
南米などでの頼母子講
ご近所づきあいなど
つまりは、合理的に「信頼関係」が築けるおの

関係性のソーシャル・ネットワーク

人と人のつながりは常に深くあるべきなのか
たとえば、親友とただの知り合いなら、前者のほうがメリットをもたらすのか

 ▼

そうとも限らない、人と人の関係はそんなに単純ではない、というのが関係性のソーシャル・ネットワークの考え方

 ▼

この分野の礎は、スタンフォード大学のマーク・グラノベッター
その論文「Strength of Weak Ties(弱い結びつきの強さ)」

若者の就職活動を研究

 ▼

就職先を得るうえで役に立った情報は、友人や親のような人たちからは17%、普段はたまにしか合わない人経由が83%という結果が出た。
むしろ弱い結びつきのほうがよかった。

 なぜか

弱い結びつきのネットワークのほうが強い結びつきのネットワークよりも情報伝達が効率的である

経営学の三つの「ソーシャル」とは何か(2)

コールマン:ソーシャル・キャピタルとは人と人の強い結びつきからもたらされる便益の事である
グラノベッター:弱い結びつきの強さのほうが多様な情報を効率的に伝播させることができる

 ▼

「強い結びつき」と「弱い結びつき」のどちらがよいのか

 ▼

場合によって異なる

 大事なポイント

ソーシャルな関係の有効性は、条件によって大きく異なる
逆に言えば、条件を見対していないときに、いくらソーシャルな関係を築いてもそこからは何もメリットを得られない可能性がある

ソーシャルな関係が機能する条件

1.ソーシャルを活用する目的
  一つのテーマについて深く情報を得ようとするのなら、深い結びつきが効果的であり、多様な情報を集めたいときは弱い結びつきのほうが効果的である。

2.ソーシャルな結びつきを通じて得たい知識・情報の質
  野中郁次郎のいう暗黙知を伝えるには密な交流が必要

3.事業環境
  たとえば
  半導体産業では弱い結びつきのアライアンスを多く持つ企業の利益率が向上
  鉄鋼産業では強い結びつきのアライアンスを多く持ったほうが利益率が向上する

構造的なソーシャル・ネットワーク

構造的なソーシャル・ネットワークでは、ネットワーク全体の構造に着目する

たとえば
3人いてタロウと花子、タロウとケンジはつながっているが、花子とケンジがつながっている場合、一番得するのはタロウである。
タロウがケンジの発信する情報を花子に流さないことができる。

 ▼

最も基本的な考え

シカゴ大学のロナルド・バートが考案した考え方。
上記の場合、花子とケンジのあいだに隙間があるのでタロウが得をする
こうしたソーシャルの隙間のことをストラクチュアル・ホール(構造的な隙間or構造的空隙)と名付けた

現在のソーシャル・ネットワーク研究においてきわめて重要

そして

ストラクチュアル・ホールを多く持つ人は、ネットワーク上に流れる情報や知識をコントロールすることができるようになるため、利用して得することができる

じつは、この考えは商売の基本中の基本

情報やモノ、資源、お金を「つなぐ」役割によって利益を上げる。
 ↓↑
これらのプレイヤーにとってストラクチュアル・ホールが埋まってしまうことが一番恐ろしい

PART2 世界の経営学の知のフロンティア

日本人は本当に集団主義なのか、それはビジネスにはプラスなのか

日本人は集団主義的な国民であるといわれるが、果たしてそうなのだろうか?そして、それがそうだとして、ビジネスに及ぼす影響は?

こうしたテーマを扱うのがNational Cultureという「国民性」である。

2001年パンカジュ・ゲマワットの論文

海外進出の際に経済指標だけでは見えてこないリスク要因を深く分析するための実践的なフレームワークを提唱
「CAFE」

1.国民性の距離 Cultural
2.行政上の距離 Administrative
3.地理的な距離 Geographic
4.所得格差の距離 Economic

進出先候補の国と自国の間の四つの「距離」をできるだけ定量化し分析するkと
上記のうち、2、3、4に比べると一番ぼんやりしているのが1である

国民性の数値化

 ▼

ヘールト・ホフステッドによる「ホフステッド指数」
1970年代後半にIBMで40か国の従業員11万人に質問状を送り国民性を分析した。

 ▼

国民性の概念が四つの次元からなることを明らかにした
1.個人主義か集団主義か
2.権力に不平等があることを受け入れているか
3.不確実性を避けがちな傾向があるか
4.競争や自己主張を重んじる男らしさで特徴づけられるか

 ▼

日本は
69か国中では際立った集団主義が強いわけではない
欧米に比べれば、集団主義であるが、中国、韓国、インドネシアなどと比べれば個人主義的な傾向が強い

ブルース・コグートとハビール・シンの1988年の論文
国と国の間の国民性がどれくらい離れているか

 ▼

日本と国民性が一番近いのはポーランド、ハンガリー
一番かけ離れているのがオランダ、スウェーデン
ホフステッド指数はIBMの従業員だけを対象としたものである

 ▼

「GLOBE指数」
1991年にロバート・ハウスが開始したプロジェクトで、2004年に発表された

 ▼

現在でも、ホフステッド指数とGLOBE指数のどちらが優れているのかは研究者の悩みの種である

集団主義はビジネスにプラスか

山岸俊男教授(社会心理学)の研究が経営学にも影響を与えている。

 それによると

「協力する相手が自分の所属する集団と同じメンバーか、それともグループ外か、をわけて考える必要がある」

 つまり

集団主義の場合、グループの外の人たちとの協力関係を築くのが心理的に困難になる可能性がある

 ▼

ビジネスパートナーを信頼しているか?
信頼しやすいのは個人主義のアメリカ
信頼しないのは韓国人、中国人、日本人

アントレプレナーシップ活動が国際化しつつあるのはなぜか

世界ではアントレプレナーシップ活動の国際化が進んでいる。
この現象には興味深い矛盾をはらんでいる
アントレプレナーシップ研究でのコンセンサス
・一般に起業家やベンチャーキャピタリストは一定の地域に集中する傾向がある

 ▼

典型的なのがカリフォルニアのシリコンバレー

 ▼

なぜ、一定の地域に集中するのか
1.知識は飛ばない
2.ベンチャーキャピタルも飛ばない

1.知識は飛ばない

地理的に密集しているほうが経営資源を得やすい
インターネットによってどこでも情報は手に入るように見えるが、本当にビジネスに必要な深い知識やインフォーマルな情報は、人と人の直接のコミュニケーションでしか伝わらない部分も多いはず

 ▼

裏付ける研究
ブルース・コグートとポール・アルメイダの1999年の論文
・知識は人に根付いたものであること
・知識を持つ人が一つの地域内にとどまれる環境があるなら知はそこに集積されていくこと
つまりは知識は遠くへは飛ばない

2.ベンチャーキャピタルも飛ばない
ベンチャーキャピタリストが地理的に近いスタートアップに投資しがち

 ▼

地理的に近いほうが、経営上のアドバイスがしやすい

 ▼

ポール・ゴンパースとジョシュ・ラーナーの研究
スタートアップ企業とリーディング・インベスターとして投資するベンチャーキャピタル企業の平均距離はわずか59マイル(約94キロ)

だが

アントレプレナーシップ活動が国際化している
すなわち、アントレプレナーシップは狭い地域に集中するのが本質なのに、地理的に遠いところまで活動範囲を延ばしている

 ▼

ベンジャミン・オヴィアットとパトリシア・マクドゥーガルの1994年の論文
ボーン・グローバル・ファームの台頭してきた可能性を通信・交通技術の発達、経済制度の収斂したためビジネスがやりやすくなっている点に見出した。

 ▼

国際起業論のフロンティアで注目されている潮流

・超国家コミュニティの出現 … アメリカで教育を受けて起業を経験した人が、母国に帰ったり、あるいは母国との間を頻繁に往復することで、国と国をまたいだインフォーマルなコミュニティを形成しつつある

 この

超国家コミュニティが発展してきているという潮流は、社会学では以前から注目されており、経営学のフロンティアでも研究が進んできている

 ▼

アナリー・サクセニアンの研究
超国家コミュニティでは一方的な頭脳の流出ではなく、頭脳の循環が起こっている

アジェイ・アグラワルとアレクサンダー・オエトゥルの2008年の論文
人の移動とは逆方向への知識移転も国境を越えて起きている
つまり、一方向の技術者の移動が、結果的に両国の間に双方向の知識移転効果をもたらしている

PART2 世界の経営学の知のフロンティア

不確実性の時代に事業計画はどう立てるべきか

経営戦略論の研究者は2種類に分けられる

・コンテンツ派 … 戦略そのもの「企業はどのような戦略を取るべきか」
・プランニング派 … 「どういうやり方で戦略や事業計画を立てるべきか」

 ▼

1970年代まではプランニング派が経営戦略論そのものだった

 ▼

マイケル・ポーターとそれに続くコンテンツ派の登場によって、経営戦略論はコンテンツ派の独壇場となっている
古典的なプランニング派の主張は二つに集約されるようにみえる

1.計画主義 … 事業計画は事前に精密に立てるべき イゴール・アンゾフの提唱した考え
  PDCAサイクルなどはこの発想と同じ

2.学習主義 … 不確実性の高い時代には、事業の目的や計画は実際に事業を進めていくうちにおのずと形成されてくる ジェームス・クインやヘンリー・ミンツバーグ

 ▼

両者の論争には決着がつかず、決着がつく前にプランニング派そのものが下火になった

両者の橋渡しをするような新しい考え方

リアル・オプション

 ▼

そもそもはファイナンス分野の考え方
事業計画では事業の収益性を評価するのがふつう

ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF法)で妥当性を評価する
→事業が将来生み出すキャッシュフローの合計が、もろもろのコストの合計を引いてもプラスになるかを評価する手段

 ▼

厄介なのが不確実性

DCF法では、「将来生み出すであろうキャッシュフロー」によって事業価値を評価する
そのため、予測が重要

もし、将来キャッシュフローがコストを下回った場合、事業は始めるべきではない

 ▼

リアル・オプションでは、段階的に投資を考える

とりあえず、市場に参入するというのがリアル・オプションの考え

1.将来望ましくない市場環境が実現してしまった場合のリスクを抑えられる

2.望ましい市場環境が実現した場合には、その機会を取り逃さないで済む
 つまり

不確実性の高い事業の評価や計画に段階的な投資の考え方を取り入れることにある

当たり前のように感じるかもしれないが、リアル・オプションが経営戦略のフロンティアで注目されているのは、「不確実性が高いことはむしろチャンスである」ということを明示的に説明したことにある

 ▼

不確実性が高くなるほど、上振れのチャンスが大きくなる、ことに注目する

リアル・オプション的な投資が有効となり得ることが明らかになっている

代表的なのが、合弁事業を、将来の合弁相手の事業買収のためのオプション、としてとらえる研究である (ブルース・コグートの研究)
 +
企業全体のオプション価値を計算した研究もある (ジェフリー・ロイヤーとトニー・トンの研究)

リアル・オプションの事業計画

1.仮定は仮定にすぎないことを認識する
  リタ・マクグラスとイアン・マクミランの研究
  仮定がいつのまにか既定路線になっていることがあるので、仮定のチェックリストを作り、マイルストーン分析を行う

2.不確実性を仕分ける
  内生的な不確実性と外生的な不確実性の区別
  内生的な不確実性は、企業が行動を起こせば低下させることができる不確実性
  外生的な不確実性は、企業がコントロールできない不確実性
  ⇒内生的な不確実性について、積極的な行動によってどうやったら不確実性を抑え込めるかを検討すべき
  イリヤ・カイパースとザビエル・マルティンの研究

なぜ経営者は買収額を払いすぎてしまうのか

経営学の研究によって、経営者は、もっともらしい経営上の説明とは別の理由で巨額の買収額を払ってしまうこともわかってきている

1.思い上がり
2.あせり
3.プライド

企業買収の目安となるのが買収プレミアム

買収プレミアムは、買収交渉が成立した時に、買収する側の企業が買収される側の企業に支払う価格が、それ以前の買収される企業の市場価値をどれくらい上回っていたかである

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通常、買収プレミアムはプラスになる

もっともらしい「合理的な」買収プレミアム上昇の理由はファイナンス分野などで多くの研究されている
 ↓↑
経営学のフロンティアでは、経営者の人間臭い心理に迫る研究が発表されている

1.思い上がり
  マシュー・ヘイワードとドナルド・ハンブリックの研究
  ・過去に買収で成功を収めた経験のあるCEOが率いる企業は、買収で高いプレミアムを払う傾向がある
  ・メディアが賞賛しているCEOが率いる企業ほど高い買収プレミアムを払う傾向がある
  ・報酬が高いCEOほど自分の経営手腕が高く評価されていると感心するため、買収プレミアムが高くなる
  また
  CEOに権限が集中している可能性が高い場合、買収プレミアムを高める効果がとくに強くなる

2.あせり
  ジェイ・キムとジョン・ハレブリアンとシドニー・フィンケルシュタインの研究
  ・買収企業の過去三年間の成長率が業界の平均成長率を下回っているほど、その企業が払う買収プレミアムは高くなる
  ・買収企業の過去の成長率が低いほど、高いプレミアムを払う傾向がある

3.プライド
  国家のプライド
  オレ・クリスティアン・ホープとダシャントゥクマール・ヴァイス、ウェイン・トーマスの研究
  国と国をまたぐクロス・ボーダーM&Aの分析の結果、新興国の企業が先進国の企業を買収するときは、他のクロス・ボーダーM&Aよりも平均16%ポイントも高いプレミアムを払っている
これらの研究からわかるのは、
本当の買収価格を見定めてその範囲内で買収額を収めるのはとても難しい
 また
M&Aの重要な局面でも、経営者の意思決定はとても人間臭いものである
 ということ

PART2 世界の経営学の知のフロンティア

事業会社のベンチャー投資に求められることは何か

コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)投資と呼ばれる企業戦略がある

「コーポレートベンチャリング」と言葉は似ているが、概念が違う。

コーポレートベンチャリングは大企業の内部でスタートアップ企業のように自立性を持った新しい事業部署を立ち上げること

CVCは一般の事業会社が、あたかもベンチャーキャピタル企業のようにスタートアップ企業に投資をすること

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CVCはハイテク系の事業会社の間では重要な投資戦略の一部となっている
ベンチャーキャピタルはリスクが高い投資である

投資業が素人である事業会社が参入するのはなぜか

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CVC投資のメリット

ヘンリー・チェスブロウの研究
CVCを通じてオープンイ・イノベーションを活性化させる目的がある

企業同士が連携してイノベーションを実現するオープン・イノベーションは基本戦略となっている

これまでは、オープン・イノベーションの具体的な手段として提携(アライアンス)が注目されてきたが、CVCも一手段になり得ることを主張した

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精緻な理論家と統計を用いた実証分析がゲイリー・ドゥシュニツキーとマイケル・レノックスである

その結果、CVC投資が多い事業会社ほどイノベーション・パフォーマンスも高くなることが分かった

また、CVC投資の大きい事業会社の方が企業価値が高くなることも明らかになった

なぜ業績を高められるか

1.スタートアップの技術について知ることができる
  専門家の目でスタートアップン持っている技術や新しい事業の可能性を学ぶことができる

2.人を入れることでスタートアップの技術やビジネスモデルの深い情報を得ることができる

3.事業の将来性を判断することができる

CVCは知の探索手段である

イノベーション戦略を考えるうえで重要な「エクスプロレーション(知の探索)」と「エクスプロイテーション(知の深化)」のうち、「知の探索」に有効である

 また
リアル・オプションのコンセプトでとらえることも可能である

しかし、実際は
 CVCはとても難しい投資であることが、研究でわかってきている

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スタートアップにしてみれば、大企業に技術を奪われかねないリスクがある
 +
事業会社の都合に振り回されてしまう懸念もある

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CVC投資の成功のカギは、ベンチャー投資業界で確固たる信頼を築けることである

継続的に安定してCVC投資を行うことで業界から信頼を得ている事業会社の方が、投資先スタートアップを買収した時に市場から高い評価を得られる

リソース・ベースド・ビューは経営理論といえるのか

経営理論を巡る論争

「学問としての」経営学について

論争の対象となったのはリソース・ベースト・ビュー(RBV)、日本では資源ベース・アプローチや資源ベース理論で呼ばれることも多い

リチャード・プリムとジョン・バトラー vs ジェイ・バーニー

RBVは経営理論としての体をなしていない

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バーニーの命題

1.ある企業の経営資源に価値があり、それが希少な時、その企業は競争優位を獲得する

2.そのリソースが、他社には模倣不可能で、またそれを代替するようなものがないとき、その企業は持続的な競争優位を獲得する

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競争優位の定義「競合相手にはできない価値創造戦略を導入する能力」
⇒定義の中に「価値」という言葉が出ている

 競争優位を持つ企業は、定義として、他企業よりも高い価値を生み出すことにある

 さらには、戦略が「競合相手にはできない」ということは、競争優位には「希少な」ものであることにある

 競争優位を言い換えれば、「企業が『価値があり』、『希少な』戦略を導入できる能力」となる

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バーニーの命題を入れ替える

1.ある企業のリソースに価値があり、希少な時、その企業は価値があり希少な戦略を導入できる

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論理的な文章か?
「美しい人は美人である」と言っているのと同じである

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つまり、反証不可能なものは理論命題とは言えない
論理学におけるトートロジー(類語反復)の状態になっている

科学理論の規範となる考えを確立した哲学者カール・ポパーによると、重要な条件は命題が反証可能な命題であること、すなわち、命題が正しくない可能性が論理的に存在することである

理論命題は反証が可能な時だけ、それが現実世界で正しいか正しくないかを実証分析できる

例:空を飛べない鳥であるペンギンは、空を飛べない

これはトートロジーであり、つねに正しいわけであるから、命題を正しいと実証的に証明する意味がない

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バーニーの命題はトートロジーとなり、反証が不可能である

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反論
言葉のすり替えという手法は、どのような経営学の理論命題もトートロジーとしてしまう
この考えがそもそも間違っている

 それに

現実のデータを使って実証分析をすることが可能である
経営学の理論で最も重要なことは、理論命題が実証研究できるか、つまりは、データを取って数値化することが可能かである

データを使って科学的な検証ができるということは、科学的な意味がある

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再反論

理論の世界と実証研究の世界は分けて考えられるべきである

両方の世界を混同している時点で、社会科学の理論の本質を理解していない
⇒「理論の世界で生じている問題は理論の世界の中で解決されるべきである」

論争はここで終了している

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経営学では理論の表記には多くの場合自然言語(多くは英語)が使われている
経済学では理論モデルの構築に数学表記が使われる

数学を用いることで、理論の曖昧性をできるだけ無くし、モデルが数学的に破たんなく解けることが理論モデルの最低条件である

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自然言語を使うため
厳密に理論的な文章を書くのは、難しい

論理学や科学哲学の基本知識が必要になる場合がある

PART3 経営学に未来はある

経営学は本当に役に立つのか

経営学では「理論」と呼ばれるものが多すぎる

ヘンリー・ミンツバーグ「戦略サファリ」で、経営戦略論には10の大きな理論的視点があるとしたが、今はさらに多くの理論があるように思われる

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現在の経営学では、理論の発展を学術的貢献として重視する傾向がある
経営学者の理論重視の傾向が、理論フレームワークのサファリ化に現れている

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結果として新しい理論が大量生産され、古い理論は放置されている

 一方で

ドナルド・ハンブリックは理論偏重の風潮を批判している

医学・疫学の世界では、特定の現象と現象のあいだに統計的に確かな関係性が確認できれば、理論的なメカニズムが解明されていなくても、重要な発見とされる

つまり、事実法則が発見されたことが重要なのである

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このような論文は経営学の学術誌には理論への貢献がないので、掲載されないだろうと述べている
もう一つの問題点

現代の経営学では「おもしろい」ということが、すぐれた研究の絶対的な評価尺度である
世界のフロンティアの経営学者にとっては最上級の褒め言葉である

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しかし
理論的仮説のうち、その後の研究によって実証研究された仮説は全体の9%もない
90%以上の理論は、理論家が言いっぱなしの状況

重大な課題

実証研究では統計的な手法が使われている

この統計手法は一般的にガウシアン統計学をつかっており、いわば「平均」の学問である
 つまり
経営学者は経営事象の間の平均的な関係を検証している

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平均から大きく外れている場合

その外れていること、つまりは独創的であることこそが、その企業の競争力の理由なのかもしれない
だが、ガウシアン統計学では分析できない

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ガウシアン統計学はその目的によって使い方を考えるべきである

それでも経営学は進化しつづける

経営学が直面している課題は三つ

1.研究者の理論への偏重が、経営理論の乱立化を引き起こしている
2.おもしろい理論への偏重が、重要な経営の事実法則を分析することを妨げている
3.平均にもとづく統計手法では、独創的な経営手法で成功している企業を分析できない可能性が残る

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経営学をさらに「科学的でありながら役に立つ」ために

○エビデンス・ベースト・マネジメント
 ジェフリー・フェファー、ロバート・サットン、デニス・ルソーらに代表される

 多くの実証研究で確認された経営法則、つまり「定型化された事実法則」を企業経営の実践にそのまま応用しようという考え
 (もともとは医学・疫学のエビデンス・ベースト・メディスンの手法)

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 エビデンス・ベースト・マネジメントで重要なことは、理論的な説明を重視しない

○メタ・アナリシス
 研究結果そのものをデータとして統計解析を行い、法則が正しいかどうかを検証する方法
 (他人のふんどしで相撲を取るように見えるが、学問手法として正しい分析手法である)

○外れ値に対しては
 ・ケース・スタディに再注目する
 ・ベイズ統計の考え方を使う

○複雑系の考え方を応用する
 複雑系では事象に安定した平均は存在せず、極端なケースが生じうることを最初から組み込んだ考え方
 「ベキ法則」と呼ばれ、自然現象や社会現象がこのベキ法則に従うことが確認されている